
Googleの行った調査で効果的なチームの第一要因に、「心理的安全性が高い」ことが挙げられています。心理的安全性の高い状態だと、メンバーそれぞれが安心して業務を進めることができるため、様々なメリットが生まれます。本記事では、そもそも心理的安全性とはなにか?心理的安全性が低い環境だとどうなってしまうのか?そして心理的安全性を高める方法を解説します。
心理的安全性とは?
「なにかあったらいつでも言ってね」・「自由に議論してね」と言っても、なかなか相談がこない・思ったより議論が進まないということがあるのではないでしょうか。それは、もしかしたら心理的安全性が低い環境が原因かもしれません。
心理的安全性とは、自身の意見や気持ちなどを自由に言いやすい・表現しやすい状態のことです。
もともとは、1999年にアメリカの組織学者エイミー・C・エドモンソン氏が心理的安全性の概念を提唱しました。
論文では、「Team psychological safety is defined as a shared belief that the team is safe for interpersonal risk taking.」と記載されており、直訳すると、「対人関係のリスクを取る行動をしても安全であるという共通の信念」と言われています。
引用元:Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams
たとえば、自身の考えや意見を発言する場面で「こんなことを言って笑われないだろうか・馬鹿にされないだろうか」と不安になり、発言することを躊躇してしまうことがあると思います。心理的安全性が高い組織では、相手や周りの人が笑ったり・馬鹿にしたりしないと信頼しているため、安心して発言することができます。
このように、心理的安全性の高い環境をつくるには、メンバーがそれぞれ尊敬し合う・理解し合うということが必要になります。
心理的安全性が話題になっている背景
前述したとおり、心理的安全性の概念は1999年に提唱されていましたが、当時はまだ広く一般的に知られているものではありませんでした。
2015年に米Googleのピープルアナリティクスチームの「効果的なチームに固有の点はなにか」という4年かけて取り組んだ調査(プロジェクト・アリストテレス)で、 効果的なチームに必要な要素の第一条件として「心理的安全性」が上がり、大変注目されました。
そのあと、特にIT業界で認知されるようになり、一般的にも心理的安全性というワードが浸透しました。
近年、多様な価値観・属性などの人と異なる部分を活かし、それぞれの人材の能力を発揮していくことを推進していくダイバーシティの考えも企業側に求められるようになってきています。このように異なる価値観であっても、お互いを受け入れ信頼し合えるような心理的安全性の高い環境であることが非常に重要となっています。
また、心理的安全性の低い環境では、発言や行動が抑制されてしまうため、個々の能力を最大限に引き出せなくなってしまいます。さらにエンゲージメント低下や人材流出にもつながることも考えられます。そのため、企業では心理的安全性を高める取り組みが進められているところもあります。
エドモンドソンの
「4つの心理的安全性を損なう要因と特徴行動」とは
心理的安全性を提唱したエドモンソンは、TEDに登壇した際に心理的安全性が低い職場で起きる問題として「4つの心理的安全性を損なう要因と特徴行動」を述べました。
このような特徴や行動が組織にあらわれている場合、その集団において心理的安全性が不足している可能性があります。
要因1:無知だと思われる不安
「無知だと思われる不安」は、「こんなことも知らないのか」と相手に思われることを恐れるあまり、気になっていることを質問したり相談したりしないことが特徴行動としてあらわれます。
このように、自身が無知だと思われることに対しての不安によって、行動することができません。
質問や相談ができずに、分からないことを分からないまま業務を進めてしまっていくうちに、業務についての理解が進まず、ミスにつながる可能性があります。
また、内容が分からないまま会議に参加してしまうこともあり、発言ができずに会議でのディスカッションに参加できずに会議への参加意義を失ってしまう可能性があります。
要因2:無能だと思われる不安
「無能だと思われる不安」は、「こんなこともできないのか」と相手に思われることを恐れるあまり、自身のスキル不足や欠点を認めない、失敗を隠す行動をとってしまいます。
できないことを「できない」と言えないあまり、自身の能力以上のことを要求される業務にアサインされ、業務をうまくこなすことができず、業務時間を大幅に越えてしまいます。最悪の場合プロジェクト失敗につながる可能性があります。
また、ミスを隠蔽することによって、さらに大きなトラブルに発展し最悪の事態になることもがあります。ミスの隠蔽が発覚した場合、自身の信頼を失い、最悪の場合懲戒対象になる可能性もあります。
ほかにも、周りの人にできないことを言えないため、学ぶ機会が失われ自身の成長を阻害させてしまいます。
要因3:邪魔をしていると思われる不安
「邪魔をしていると思われる不安」は、「話の邪魔をしているのではないか」と思われることが不安になり、自身の発言によって議論が長くなって、話が脱線してしまうことを恐れて、自ら発言をしなくなってしまいます。
自主的に発言しないため、形式的な会議になってしまい、活発なディスカッションができなくてなってしまいます。それによって、アイデアや新たな気づきが生まれません。
また、発言しない場合、「この議論の結論に賛成である」と思われ、間違った方針ややり方に陥る可能性もあります。このようにチームにとって、会議を実施する意味が失われてしまいます。
要因4:ネガティブだと思われる不安
「ネガティブだと思われる不安」は、「消極的で否定的だ」と思われるのではないかと不安になってしまい、指摘や批判をしなくなってしまいます。
チームの輪を乱すことを恐れているため、積極的な発言やアイデア出しを行いません。業務の前向きな改善するための指摘や提案であっても、否定的だと思われたくないあまり、発言を躊躇してしまいます。チームの課題は分かっていても、改善にまで踏み切れない状況になります。
ほかの人の意見を批判できないため、反対の意見があっても躊躇してしまうため、しっかりとした議論がおこなわれなくなってしまいます。
心理的安全性がもたらすメリット
心理的安全性を高めることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
自分の発言でどう思われるか不安に思うことがなく、自由に発言できるため、さまざまな良い効果が生まれます。考えられるメリットを下記3つ紹介します。
パフォーマンスの向上
心理的安全性が高いと、職場環境が良いため安心・満足して業務に取り組むことができます。その結果、モチベーションを高く持ち、業務に集中できます。それによって個人のパフォーマンスが向上し、業務効率が上がり、仕事の質も上がります。
また、躊躇して発言できないということがなく、意見や提案を発言しやすくなるため、改善や意思決定がスピーディーにおこなわれます。ディスカッションの際も、意見を言いやすい雰囲気であるため、有意義なディスカッションができます。その結果、チームとしてのパフォーマンスも向上します。
ほかにも、スキル不足であることを馬鹿にしたり貶したりしないため、その状況を受け入れ、チームメンバーに教えてもらったり、知識の共有がおこなわれやすくなります。結果として、スキルが向上し全体のパフォーマンス向上に寄与します。
エンゲージメントの向上
心理的安全性が高い場合、職場の対人関係においてリスクを感じないため、働きやすくなります。リモートワークを導入する企業が多いなかでも、相談や悩みを言える状態であるため、孤独を感じにくくなります。
自身の発言に対してだれも馬鹿にしないため、安心して発言することができるため、自身の考えを受け入れてもらっていると感じることができます。そのようなチームのなかで働くことで、安心感・居心地の良さを感じます。
転職する理由として「人間関係」の割合が高いとされていますが、心理的安全性の高い職場の場合、人間関係が悪くなりにくいため、エンゲージメントが向上し、優秀な人材の流出を抑えることができます。
エンゲージメントの測定結果が悪い場合、心理的安全性の低さも要因のひとつかもしれません。
コミュニケーションの活発化
心理的安全性の高い職場では、安心してチーム内で発言できるため、コミュニケーションを取りやすい状態になります。不安を恐れて発言を控えるといったことがないため、率直な意見や本音の発言が可能になり、上司や同僚に素の自分をさらけだせるようになります。
このようにお互いのことを受け入れ、積極的に意見を言い合ったり、情報共有を行ったりと、よりよい協力関係を構築することができます。
また、コミュニケーションの活発化によって、報告・連絡・相談が円滑に頻繁におこなわれるため、問題を未然に防ぐことができ、トラブルが発生しても迅速に対応できます。
チームの心理的安全性を高める3つの方法
では、どのようにチームの心理的安全性を高めていけばよいのでしょうか。
注意しなければならないのは、仲が良いだけのぬるま湯の職場にならないようにするべきです。ただ、仲が良いだけではなく成果を出すためにどうしたらよいかを考えてチームとして同じ目標に向かって切磋琢磨していく環境である必要があります。心理的安全性を高める方法にはさまざまなやり方があると思いますが、ここでは3つ紹介していこうと思います。
信頼関係を築く
心理的安全性を高めるためには、お互い尊重しあい受け入れることが必要です。
「これから心理的安全性高めましょう」と言って、急にメンバーの発言が活性化することは考えられません。まずは、同僚・先輩・上司の前に一人の人間として尊重しましょう。
なにか発言してネガティブな態度・言動が返ってくると不安に思われてしまっては、心理的安全性は高まりません。そのように思われてしまうような行動や言動は控えましょう。
具体的には、下記のようなことを心掛けましょう。
- 無視しない
- 挨拶をする
- 無関心にならない
- 差別しない
- 怖い態度をとらない
- ぶっきらぼうにしない
- 人格を否定しない
- 笑顔を見せる
ひとつひとつは簡単で当たり前のことですが、会社や集団のなかとなるとできなくなる人もいます。このような行動や言動が積み重なって信頼関係は構築していきます。
お互いを知る機会を作る
近年、リモートワークが普及して実際に人に会えなくても仕事ができるようになりました。そのようななかで、距離感や雰囲気がつかめないまま、言いたいことが言えないということがあるのではないでしょうか。リモートワークでの業務が主体の職場の場合、必要最低限の会議でしか話すことが無く、雑談すらしたことがないということがあるのではないでしょうか。
雑談はお互いがどのような人なのか知る大変良い手段です。1on1の実施やメンバー間でフランクに話せる場を設けるなどして、その人がどのような価値観・特徴を持っているのかを知る機会をつくりましょう。
また、職場でストレングスファインダーや心理テストなどを受けて、パーソナリティを客観的に数値化できるツールの導入もお勧めです。ただ受けて終わりではなく、強みを把握しどう強化していくのか、弱みをさらけ出せるような場を作り、否定ではなくそれらを受け入れ、どうカバーできるかなどディスカッションする場を設けても良いかもしれません。
他責にしない
成果に注目して叱咤激励する際に、その人の出来ていない部分ばかり触れてしまうということはないでしょうか。そうすると、「自分は期待されていない」「自分はできない」などネガティブな状態になります。
叱咤激励する立場の人は、本当は自分がコミットできる余地があったのではないか、フォローすべきことがあったのではないかを考え、発言するようにしましょう。
たとえば、新人や新入社員に新しい知識を教えている際に、教えたことが分からない様子であっても、「なぜ分からなかったのか、自分の教え方に不足があったのではないか」という視点を持ち、「相手が分からないから悪い」というような態度を取らないようにしましょう。
そうすることで、分からない・できないことを発言しやすくなり、チームの成長に寄与します。
よりよいチームをつくるという点では、目標やプロジェクトの成功に向けて最大限の効果を発揮できるチームを作るためのチームビルディングも重要です。こちらの記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
チームビルディングとは?目的やメンバーと組織パフォーマンスを上げる方法
まとめ
心理的安全性の高い職場は、ぬるま湯のようにただ仲が良いだけのぬるい環境ではありません。しっかりと自由に自身の思ったことを発言し、その上で成果にコミットできるようにならなければ意味がありません。
心理的安全性は、リモートワークが主体となった現代でも、人の感情という普遍的なものに左右されるものです。今後も組織論のひとつとして非常に重要な要素となるのではないでしょうか。

この記事の執筆者:岩瀬(マーケティング本部)
人材会社にシステム職として入社し、サービスのシステムインフラを構築・運営を経験後、営業支援業務やマーケティング業務に関わる。2022年ドリーム・アーツに入社。