近年大型の自然災害や新型コロナウィルス感染症など、予期せぬ災害が繰り返し発生しています。そのようななか、政府が推進しているBCP(事業継続計画)に注目し、策定に向けて動く企業が増えてきました。
しかし「BCPって何の略?どういう取り組みなの?」と疑問に思う人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、リスクマネジメントの切り札とされるBCPについて、策定の必要性や策定方法、今すぐできる簡単な取り組みなどを紹介します。
BCPとは?
BCPとはBusiness Continuity Planの略語で、「事業継続計画」を指します。具体的には、企業が自然災害や大規模なシステム障害などに遭ったときに、被害や損害を最小限に抑え、事業を継続、あるいは早期復旧させるための対策をまとめたものです。
近年日本では、東日本大震災や集中豪雨、新型コロナウィルス感染症の拡大など、予期せぬ災害が頻発しています。災害が発生するたびに事業がストップし、再開するまでに長い時間を要するようでは、競争の激しい市場で生き残るのは困難です。未来予測が難しいVUCAの時代においては、あらゆる事態を想定し、備えておくことが求められます。その備えのひとつがBCPです。
BCPは、単なる防災対策ではなく、「事業の継続」に焦点を当てているのが特徴です。相次ぐ災害を教訓に、多くの企業がBCPの策定に関心を寄せるようになりました。あらためてBCPの必要性を確認し、策定を急ぎましょう。
BCPの必要性について
企業がBCPを策定する必要があるとされるのには、以下の3つの理由があります。
- 緊急時でも事業を継続するため
- 企業の信頼性を高めるため
- 従業員に安心して働いてもらうため
順番に解説します。
緊急時でも事業を継続するため
BCPを策定するべきもっとも重要な理由は、緊急時でも事業を継続する体制を整えるためです。
当たり前のことですが、緊急事態は予告なく訪れます。それが地震なのか大規模なシステム障害なのか、だれにも予測できません。もし司令塔である本社が被害を受けると、地方の工場や営業所まで影響がおよび、事業に甚大な損害を与える恐れもあるでしょう。混乱するなか、あらかじめ備えていなければ、冷静な経営判断を下すのは多くの企業にとって困難です。
しかしBCPにおいて緊急時になにを優先し、どう行動するかの指針が示されていると、その内容に沿って判断し、事業を継続できる可能性が高まります。BCPは万一の事態に際し、企業の命運を左右することすらあるのです。
企業の信頼性を高めるため
BCPが役立つのは、緊急時だけとは限りません。BCPが策定されている企業は、「危機管理能力が高い」と取引先からの信頼を得る効果もあるためです。
もし取引先が災害に遭い事業が停止すると、自社にも多大な影響を及ぼすことは容易に想像できるでしょう。
しかし取引先がBCPを策定している企業であれば、緊急時でも取引停止になるリスクが低いと考えられます。BCP策定企業との取引は、自社の経営安定にもつながると取引先に判断してもらえる可能性があるのです。
信頼を得られるのは、取引先からだけではありません。株主や投資家も、危機管理がしっかりおこなわれていれば、安心して投資できると判断します。つまりBCPを策定していると、企業イメージや企業価値の向上にも貢献するのです。結果的に、事業に好影響を及ぼすこともあるでしょう。
従業員に安心して働いてもらうため
BCPの策定は、従業員に安心して働いてもらう環境構築にもつながります。災害にあっても事業を継続できる可能性が高ければ、従業員は雇用を守られ、万一の事態に職を失う不安を抱える必要がなくなるためです。
さらに緊急時の行動指針が示されていれば、災害が発生したときにどう行動すればよいのか迷わなくてよいことも従業員にはメリットです。たとえば交通機関がマヒしているときに、出社するのか、在宅するのかの指針が示されていれば容易に判断できます。不安なく働ける環境下なら業務に打ち込めるので、生産性の向上も期待できるでしょう。
BCP策定ステップ
BCPの策定は、次の4ステップで進めます。
- 目的を設定する
- 重要業務とリスクを整理する
- 対処するリスクに優先順位を付ける
- 具体策を考える
具体的な内容を確認しましょう。
目的を設定する
BCPを策定するには、まずは自社の経営理念や基本方針を振りかえることからはじめます。これはBCPを策定することで、なにを守りたいのかを明確にするために欠かせないステップです。従業員の命や取引先からの信用、地域経済の維持など、思いつくものを挙げていきましょう。緊急時にすべてを守るのは困難であるという事実を認識し、そのなかでもとくに守るべきものを念頭に置いたうえでBCPを策定することが大切です。
重要業務とリスクを整理する
続いて災害に見舞われた際、事業を継続するために優先的に建て直すべき「自社の中核となる事業」を明らかにしていきます。中小企業であれば特定は難しくないかもしれません。しかし業務が多岐にわたるケースや大企業では、多角的に検討する必要があります。
基本的には、以下のような事業が中核事業に該当します
- もっとも売上が立つ・利益率が高い事業
- 作業が遅れることで損害が大きくなる事業
- 市場優位性や社会的評価を維持するために重要な事業
- 法的・財政的な責務を果たすために欠かせない事業
災害時は、従業員が出社できない、原材料を入手できないなどあらゆるリソースが不足することも考えられるでしょう。リソースが不足する状況下でも継続すべき事業はなにかを考えるのも、中核事業を見極める方法のひとつです。たとえば事業のひとつとしてスーパーを運営している企業であれば、多くの市民が必要とする生活必需品の仕入れルートを維持し、供給を継続するのが最優先と判断するケースもあります。災害時に生活物資が行き渡らなければ、顧客への影響が大きいこともありますが、ほかの事業を優先すると社会的評価を落とす可能性もあるためです。
このように、中核事業を検討するときには目先の売上だけにとらわれず、今後の貢献度といった長期的視点や、社員の就業の場の確保といった角度から考えることも重要です。中核事業を定めたら、想定されるリスクを洗い出します。自然災害、テロ、感染症の流行、システム障害、情報漏えいなど、考えられるものをリストアップしましょう。そのうえで、発生時に中核事業へどのような被害を与えるかを細かに検討していきます。
リスクマネジメントとはなにか?必要性やプロセスを徹底解説
対処するリスクに優先順位を付ける
リスクを洗い出したら、優先順位をつけていきます。災害時には、すべてのリスクに対処しようとしても、リソースが不足している可能性が高く、優先的に対応するリスクを決めておく必要があるためです。
優先順位は、リスクの発生頻度の高低と、中核事業に与える損失の規模の大小の2方向から検討するとよいでしょう。
基本的には、発生頻度が高く事業への影響が大きいリスクから優先的に対応が必要になりますが、事業内容やBCP策定の目的によっても異なります。自社にとって最優先で対応すべきリスクはなんなのか、よく検討して絞りこんでいきましょう。
具体策を考える
最後のステップでは、リスク発生時に事業を継続するために、どのように対応するのか具体的な対策を検討します。その際には、人的リソース確保や施設・設備の復旧などとあわせ、事業継続に必要な資金調達の方法を考えておくことも重要です。災害時には迅速に初動をおこす必要もあります。たとえば本社が機能しないときにはだれが判断を下し指示を出すのか、指揮系統を明確にしておくことも大切です。
災害が発生した場合にやるべきこと
実際に災害が発生したときには、まず次の3つを迅速におこなえるよう対策を検討しておきましょう。
- 被害状況の確認作業
- 応急処置による代替
- 復旧作業による平常運転への移行
順番に説明します。
被害状況の確認作業
災害発生時にまずおこなうべきなのは、被害状況の確認です。発生した災害により、どこでどのような被害が生じているのかの確認作業を迅速に進めなければなりません。
もっとも優先すべきは、自社の従業員の安否確認です。従業員のスマートフォンなどを介して災害時に安否確認できるアプリやシステムを導入していると、迅速に安否確認を済ませられます。平時に導入を検討しておくとよいでしょう。
つづいて建物や工場などの、中核事業に関係するハードの被害状況を確認します。あわせて近年の事業運営には欠かせない、システムや通信インフラなどの被害状況の確認も進めましょう。
応急処置による代替
被害状況を把握したら、被害を受けた場所や内容に応じ、あらかじめBCPで策定していた内容に従って代替手段での中核事業の継続を試みます。中核事業を継続するための応急的な原材料の調達方法、代替生産の手段、業務のアウトソーシング先など、あらかじめ規定していた内容に沿って迅速に行動し、事業継続・早期復旧を目指しましょう。
災害時でも人的リソースを確保するために、社員が自宅でリモートワークできる環境を平時に整えておくことも重要です
復旧作業による平常運転への移行
緊急時の応急的な中核事業の運営から平常運転に移行するには、施設や設備など物理的に被害を受けた部分とあわせ、サーバーやネットワークなどの復旧も同時に進める必要があります。
現代の事業運営においては、通信インフラの確保は平常運転に戻すためには最優先すべき事項であるためです。復旧を迅速に進めるためには、平時から設備の設計やシステムの設定などを把握しておく必要があるでしょう。
なおデータのバックアップを常に取っていれば、復旧へのハードルが下がります。近年はクラウドサービスが主流となってきているので、通信インフラは維持しやすくなっていますが、普段の備えが重要です。
BCPの比較的簡単にできる取り組み
BCP策定は時間をかけて取り組む必要があるため、まずは比較的簡単にできる以下のような対策から導入を検討しましょう。
- リモートワーク環境を整える
- 時差出勤をおこなう
- ペーパーレス化を進める
順番に見てみましょう。
リモートワーク環境を整える
リモートワーク導入が進んでいない企業は、今からでも環境構築に努めることをおすすめします。リモートワークできる環境があれば、災害でオフィスが利用できない、交通機関を利用できないような場合でも、人的リソースを確保できるため、事業を継続しやすくなるためです。
普段からクラウド型のITツールを使う、クラウドストレージでデータ共有するなど、インターネット環境があれば自宅からでも業務をおこなえる環境を整えておきましょう。
リモートワークを導入するための課題は?
時差出勤をおこなう
業務内容などによりリモートワークを導入できない企業や部署では、時差出勤を実施するのもリスク低減には有効です。
社員の出勤・退社時間がずれていれば、万一災害が発生しても、リスクを分散できるのが時差出勤のメリットです。本社に被害があり通信が遮断されたような場合でも、自宅に残っていた社員が状況確認をすすめられるようになります。時差通勤なら満員電車での通勤を避けられるので、感染症対策としても有効です。
ペーパーレス化を進める
簡単に始められるBCPの取り組みとしては、ペーパーレス化を進めるのもおすすめです。紙媒体で業務を進めていると、災害時に焼失する可能性は拭えません。取引先との重要書類を失うと、今後のビジネス運用にも甚大な影響を受けるリスクがあります。
また紙ベースではテレワークに対応できないのもデメリットです。災害で紙の資料がなくなっても事業を進められるよう、クラウドストレージやクラウド型ツールを導入し、ペーパーレス化・デジタル化を進めておきましょう。
ペーパーレス化はなぜ必要なのか?メリットや推進のヒントを解説
中小企業庁が公表しているチェックリスト
これは「人」「モノ」「金」「情報」に「事業継続のポイント」を加えた5区分についての質問に、はい・いいえ・不明で回答していくものです。どのような内容なのか、一部を紹介します。
●人的資源
- 地震や水害・火災などの緊急時に、従業員の安全や健康を守るための防災計画を作成していますか?
- 定期的な避難訓練を実施していますか?
●物的資源(モノ)
- 事業所の建物や機器類は、大規模地震に耐えられますか?
- 事業に必要なすべての物資のリストを作成して管理していますか?
●物的資源(金)
- 1週間、あるいは1か月程度事業を中断した場合、どれくらいの損失額が出るか把握していますか?
- 売上1か月分程度の現金を、常に確保していますか?
●物的資源(情報)
- 情報のコピーやバックアップは定期的に作成していますか?
- 操業に欠かせないコンピューターなどのIT機器が使えなくなったときの、代替方法はありますか?
●事業継続のポイント
- 会社が自然災害や人的災害に遭ったとき、事業活動がどうなるかを考えたことがありますか?
- 緊急事態に遭遇したとき、どの事業を優先的に継続・復旧すべきか、そのためになにをすべきかを考え、実際に対策を立てていますか?
【出典】「中小企業BCP(事業継続計画)ガイド|12〜13ページ」(中小企業庁)
このような質問が合計20個用意されていて、「はい」の数で以下のように取り組み状況を判定します。
- 16〜20個:BCPの取り組みが進んでいる
- 6〜15個:意識は高いが、改善すべき点が多い
- 0〜5個:緊急事態に遭遇したら廃業のおそれあり。早急に取り組みを始める必要がある
質問に答えていくだけで自社の状況を簡単に判定できるので、ぜひチェックしてみてください。
BCPの企業取り組み事例
ここではBCPに取り組んでいる3社の事例を紹介します。
飲食店の事例
飲食店を営むA社では、毎年のように大雨による被害を受けることに悩んでいました。そのため水害対策として冷蔵庫などの機器をブロックの上に設置するなどの対策を実施しました。さらに大雨が予測されるときには仕入れを減らすなど、損失が大きくならない工夫もしています。このように、低コストでもBCP対策は可能です。
ソフトウェア会社の事例
東日本大震災をきっかけにBCPの重要性を実感したB社では、本社と支店のデータのバックアップを相互にとりはじめました。災害時にすべてのデータが消失するのを防ぐBCP対策としての取り組みです。さらに原則月1回BCPの実施内容や課題を検討するための委員会を開催し、PDCAサイクルを回しています。
食品製造業者の事例
食品製造事業を営むC社は、津波ハザードマップを確認したところ、南海トラフ地震による津波が発生した場合に本社が浸水地域に該当するとわかりました。そこで万一津波が発生した場合でも生産体制を維持できるよう、浸水地域外に新工場を建設しました。従業員の安全確保にもつながったことで、安心して事業を運営できるようになりました。
BCPも意識した業務デジタル化なら「SmartDB」
リモートワーク環境の整備や、業務デジタル化・ペーパーレス化を実現するにはワークフローシステムの導入が効果的です。システム選定の際には、BCPオプションを備えたシステムかどうかをチェックしましょう。
ワークフローシステムの導入手順とは?ワークフローシステム選定のポイントとあわせて解説
ドリーム・アーツが提供する「SmartDB」は、非常に柔軟なワークフロー機能とWebデータベース機能を持ち合わせた大企業向け業務デジタル化クラウドです。BCPオプションを備えており、緊急時のバックアップや、迅速なシステム復旧をサポートします。
「SmartDB」での業務デジタル化には次のようなメリットがあります。
- 対応できる業務カバー範囲が広いため、全社の業務プラットフォームとして展開できる。
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- ユーザー属性に合わせた柔軟な情報の見せ方ができる。
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まとめ
厳しい市場競争で生き残るには、どのようなときでも事業を安定的に継続していく体制作りが重要です。そのためにはBCPを策定し、災害や緊急事態に備えておく必要があります。
BCPの策定を目指しながら、リモートワーク環境の構築やペーパーレス化といった、今すぐできる対策を進めることも大切です。クラウドストレージを導入するのとあわせ、ペーパーレス化や押印レス化を実現するワークフローシステムといったツールも検討するとよいでしょう。
BCPを策定することは、企業の信頼性を高めること、授業員の雇用を守ることにもつながります。今回の記事を参考に、BCPの策定を進めてみましょう。
この記事の執筆者:加藤(マーケティング本部)
2017年に新卒でドリーム・アーツに入社。営業部門やインサイドセールスチームでの業務を経て、現在はマーケティング部門にてコンテンツの作成に従事。物理的な声の大きさだけが取り柄だと思っていますが、文章という形でみなさんのお役に立てる情報をお届けできるよう頑張ります!