フレックスタイム制とは?メリット・導入の流れ・企業の成功事例を解説

近年、働き方改革が進み「フレックスタイム制」という言葉を耳にする機会も増えたのではないでしょうか?すでに制度として導入し始めた企業や、今後導入したいと考えている企業も多いと思います。フレックスタイム制の導入により私生活との両立がしやすくなったり、無駄な残業時間を削減できたりとさまざまなメリットがある一方で、勤怠管理が複雑化し、バックオフィスの方々の負担が増えてしまうという懸念もあります。今回はフレックスタイム制の基本的なルールからメリット・デメリット、導入の流れまで解説していきます。

フレックスタイム制

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、一定の期間(清算期間)について定めた総労働時間があり、その範囲内で労働者が始業・終業時刻を自ら決定できる制度のことです。
たとえば、9時~18時など業務時間の指定がなく、その時の業務量に合わせて業務時間を労働者自ら自由に設定することができます。フレックスタイム制自体は30年以上前から日本で導入されていましたが、近年働き方改革によりワーク・ライフ・バランスが尊重されるようになったことや、生産性を向上させ、無駄な残業を減らそうという考え方が広まったことによって普及が進んでいます。

一般的には、労働者が必ず労働しなければならない時間を指す「コアタイム」と、労働者が労働時間を選択できる時間を指す「フレキシブルタイム」を設けて導入する企業が多いですが、それらの時間を設けずさらに自由度の高い「スーパーフレックス制度」を導入している企業もあります。
多様な生活様式に合わせて働くことができるフレックスタイム制ですが、冒頭でもふれたように、勤怠管理が複雑化したり、残業時間の計算がしづらくなったりと、担当者の負担を増やしてしまう可能性があります。そのようなデメリットもしっかりと認識したうえで、運用準備を整えることが重要です。

フレックスタイム制は「スマートワーク」の方法の一つでもあります。 「スマートワーク」とはICT(情報通信技術)を活用することで、時間や場所も選ばず、組織と個人の生産性を最大化することを目的とした働き方のことで、働き方改革の施策として検討されます。

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フレックスタイム制を導入する企業・職種の特徴とは

令和2年に厚生労働省がおこなった調査では、フレックスタイム制を導入した企業は6.1%で、従業員数1,000名以上の大企業に絞ると28.7%でした。このことから、企業規模が大きいほど導入が進んでいることがわかります。ただ、企業規模が大きくなるほどさまざまな職種の社員がいるため、部門によってフレックスタイム制の導入率は異なります。
フレックスタイム制を導入しやすい職種としては、エンジニアやプログラマー、デザイナーなどが当てはまります。このような個人でできる業務が中心の職種は、フレックスタイム制を導入していることが多くなっています。逆に、工場や店舗で働く社員や、チームワークを必要とする職種のフレックスタイム制の導入は難しくなっています。

フレックスタイム制と法律の関係性

フレックスタイム制は、1987年の労働基準法の改正により1988年4月から正式に導入された制度で、労働基準法第32条の3で定められています。(2019年の働き方改革関連法において改正されており、清算期間が1カ月から3カ月に延長されています。)

フレックスタイム制の導入に必要な条件は?

フレックスタイム制を導入するにあたり必要な条件は①就業規則等に規定する②労使協定の締結の2つです。

①就業規則等に規定する

フレックスタイム制を導入するには、就業規則かこれに準ずるもので、始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定める必要があります。始業時刻か終業時刻のどちらか一方では適さないため、必ずどちらも労働者の決定にゆだねる必要があります。

②労使協定で所定の事項を定めること

フレックスタイム制を導入するためには、労使協定の締結が必要です。さらに、清算期間が1カ⽉を超える場合には、所轄の労働基準監督署⻑に届け出る必要があります。 違反した場合には、罰則(30万円以下の罰⾦)が科せられることがあるため、注意が必要です。※清算期間が1ヵ月以内の場合は届出不要です。 労使協定に定める事項の詳細は、「フレックスタイム制を導入の流れ」で紹介します。

フレックスタイム制と、間違われやすい制度

ここまで、フレックスタイム制の基本的な内容や仕組みについて説明しましたが、フレックスタイム制と内容が似ていて、混同されやすい制度もあります。今回は特に間違われやすい「裁量労働制」と「変形時間労働制」についても簡単にご紹介します。

裁量労働制

裁量労働制とは実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定めた労働時間を労働時間としてみなす制度のことです。
裁量労働制の契約でみなし労働時間を1日8時間とした場合には、実際の労働時間が4時間であろうと10時間であろうと、契約した8時間働いたとみなし、給与に反映されます。就業時刻が労働者側である程度自由に決められる点はフレックスタイム制と共通していますが、裁量労働制では実労働時間がない日でも「働いた」とみなされる部分が異なります。

変形時間労働制

変形時間労働制は、一定期間内の労働時間の割り振りを自由にできる労働時間制度のことです。
一定期間の合計労働時間で計算する点はフレックスタイム制と共通していますが、変形労働時間制の場合、繁忙期・閑散期など企業や部署全体の仕事量に対して業務時間が調整される制度のため、プライベートな都合に合わせて変更できない点が異なります。

フレックスタイム制を導入するメリット

無駄な残業時間の削減

フレックスタイム制では、業務量によりその日の業務時間を調整することができるので、無駄な残業を防ぐことができます。特にやることがないのに決まった時間に出勤する必要や、その日にやるべき業務が終了しているのに定時まで残る必要がなくなります。その代わりに業務が立て込んでいる日には少し長めに業務時間を設定するというように個人単位で調整ができるため、無駄な残業時間の発生を防ぐことができます。

生産性の向上

体調が悪い時には早めに業務を切り上げる、通勤ラッシュ時の通勤で疲労し、業務の妨げになっている場合は出勤時間を調整して出勤するなど、自分が集中して業務に取り組める時間を選択することができるため、業務に集中しやすく、生産性の向上が見込めます。また、早く仕事を進めても定時まで待たなければいけないということもないため、自然と業務のスピードを上げて早く仕事を切り上げたいと考える従業員も増え、生産性が上がるといえます。
生産性を上げる方法についてはこちらの記事でも紹介しています。ぜひ合わせてご覧ください。

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プライベートとのバランスがとりやすい

子どもの迎えがある日は早く業務を終了したり、前日に長時間労働した分は翌日早めに業務終了し趣味の時間に充てたりと自分の都合に合わせて業務時間をコントロールできるため、私生活との両立がしやすいといえます。私生活と仕事とのバランスがとれることにより、心身ともに健康な状態を維持することができ、モチベーションを保つことにもつながります。労働者にとっても、企業全体にとってもプラスの効果を発揮するといえます。

離職者の軽減や優秀な人材の採用に効果的

親の介護や子育てなど家庭の事情でフルタイムで働くことが難しく、やむを得ず退職を選択していた従業員もいるのではないでしょうか?フレックスタイム制を導入することにより、個人的な事情と業務時間の調整がしやすくなり、退職の必要がなくなる可能性があります。優秀な人材を逃さずに済むことは会社にとって大きなメリットといえます。また、フレックスタイム制は人事制度としても魅力的な制度のため、採用の際のアピールポイントにもなり、優秀な人材の確保にもつながると考えられます。

フレックスタイム制を導入するデメリット

勤務時間管理の複雑化

社員ごとに勤務時間が異なるため、勤務時間の管理が複雑になり、人事担当者の負担が増える可能性があります。業務時間がバラバラになることで、遅刻、早退、時間外労働などの管理も難しくなります。
また、勤務時間の管理を労働者自身でしなければならないため、自己管理ができていない場合、労働時間が所定の時間に達していないという事態が発生する可能性もあります。そうなると給与から控除したり、次の清算期間の所定労働時間に反映させる必要が出てきたりと、さらに複雑になってしまいます。フレックスタイム制の対象になる労働者が信用に足る人物かどうかの判断はもちろんですが、複雑な勤怠管理に対応できるような勤怠管理ツールの導入なども検討し対策する必要があります

残業代の計算がしづらい

勤務時間がバラバラになることで、残業代の算出もしづらくなってしまいます。労働者ひとりひとりの残業代を算出する必要があるため、勤怠管理や給与計算を手作業で行っている企業にとってはかなりの工数が必要となります。あらかじめどのように対応するのか考えておく必要があります。

コミュニケーションがとりづらい

決まった業務時間内にすべての社員が出勤しているわけではなくなってしまうため、社員同士の時間が合わず、コミュニケーションをとりづらくなることが考えられます。コミュニケーションがとりづらくなることで、社員としての一体感や、気軽に相談できる機会も減少し、士気が下がってしまう可能性もあります。そのため、導入の際にはコミュニケーションツールの活用や、コアタイムを長めに設けるなどの対応を検討し、コミュニケーションが取りやすい仕組みづくりを検討する必要があります。

業務の停滞

出勤時間がバラバラになることで、緊急の対応が難しくなることがあります。従業員がそろっていないことで業務の停滞が発生し、結果的には取引先や関係者に迷惑をかけてしまうことも考えられます。
そのため、フレックスタイム制導入の際には、いつだれが見ても業務の状況がわかるような環境を整える必要があります。

弊社が提供する「SmartDB」には、フレックスタイム制やテレワーク実施時に起こる業務の停滞・コミュニケーションの障壁などのデメリットを解決するために活用いただける機能が多数ございます。

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フレックスタイム制の注意点

注意点1:労働時間の把握

フレックスタイム制は、始業時刻・終業時刻の決定が労働者に委ねられている制度です。しかしながら、会社が各人の労働時間の把握をしなくても良いということはありません。実労働時間の算定だけではなく、労働者の健康管理のためにも労働時間の把握は会社の義務です。フレックスタイム制を導入した場合も厚生労働省の発表するガイドラインに従って、適正な労働時間の把握をしましょう。

注意点2:就業規則を設ける必要性

フレックスタイム制を導入するためには、就業規則に始業時刻・終業時刻両方を労働者に委ねる旨を定める必要があります。
この際、始業・終業時刻の両方を労働者に委ねていることがポイントになります。たとえば、始業時刻だけを労働者に委ねても、1日8時間は働くよう命じては、終業時刻の選択を労働者に委ねていないことになるため、労働基準法上問題なくともフレックスタイム制としては認められません。コアタイムやフレキシブルタイムのように制限を設ける場合は、労使協定で明確に定めましょう。

注意点3:時間外労働の割増賃金支払いの必要性

フレックスタイム制においても労働時間を超えた場合、残業代を支払わなければなりません。また、法定時間外労働や法定休日労働、深夜労働には割増賃金の支払いが必要です。
フレックスタイム制では、時間外労働は1日単位ではなく、労使協定で定めた「清算期間における総労働時間」を超えた労働時間で計算します。清算期間が1ヵ月を超える場合には、以下2つの時間も時間外労働となります。
  1. 1ヵ月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間
  2. 清算期間内で法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1.でカウントした時間を除く)
また、法定休日労働と深夜労働については、通常の勤務形態と同様に考えます。

フレックスタイム制導入の流れ

ステップ1:対象者の決定

職種や業務内容によっては、フレックスタイム制を導入することが難しい場合もあります。はじめからすべての社員に対して導入しなければならないということはありません。最初はフレックスタイム制が合いそうな部署や、導入しやすそうな職種の社員から導入を初めてもいいかもしれません。ただし、曖昧なまま進めてしまうのではなく、あらかじめ対象者の範囲を明確にし、決定しておきましょう。仕事に慣れる前の新入社員はフレックスタイム制の対象者から外すなど、フレックスタイム制が定着した後でも状況に応じて対象者を更新するのがおすすめです。

ステップ2:就業規則に規定

最初にも説明したとおり、フレックスタイム制を導入する際には、就業規則等に「始業・終業時刻の決定を対象者に委ねる」旨を定めなければなりません。
コアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合には、具体的な時間帯の範囲もあらかじめ定める必要があります。

ステップ3:労使協定の締結

「フレックスタイム制と法律の関係性」のところでも説明したように、フレックスタイム制の導入には労使協定の締結が必要です。
具体的には、以下の事項を定める必要があります。

  1. 対象となる労働者の範囲
  2. 清算期間
  3. 清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
  4. 標準となる1⽇の労働時間
  5. コアタイム(※任意)
  6. フレキシブルタイム(※任意)

ステップ4:運用のための整備

制度導入にあたり、先に紹介したようにデメリットが生じる可能性があります。社員の混乱を招いてしまわないように、あらかじめ説明し、理解してもらうことが重要です。
また、デメリットを説明するだけでは不安を仰ぐことになってしまいます。どのように対策するのかを準備、明確にしたうえで、デメリットと合わせて社員に説明することが重要です。

フレックスタイム制導入事例

ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社では、社員が快適な働き方で生産性を向上させることを目的として、スーパーフレックスタイム制を導入しています。2017年からコアタイムを廃止し、1万人規模での導入をしています。そのほか、介護や育児を両立するための時短勤務制度も導入しており、すべての社員が快適に働くことができるよう完成度を整えています。

アサヒグループホールディングス株式会社

アサヒグループホールディングスでは、すべての従業員が、健康な状態で働ける職場環境づくりが企業の社会的責任であると考え、それを支援するような制度を複数導入しています。そのなかでもアサヒビール株式会社では「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた証であるプラチナくるみん認定も受けており、仕事と私生活の両立を支援する取り組みが認められています。

アステラス製薬株式会社

アステラス製薬株式会社では、グローバルな視点で魅力的な雇用環境の確立を目指し、社員一人ひとりの豊かな生活と生産性・創造性・納得性の高い働き方を両立する観点から、柔軟な働き方の実現に取り組んでいます。フレックスタイム制の導入だけでなく、在宅勤務制度や託児費用補助制度(産休・育休からの復職時、認可保育所に入所できない場合、最大16万円/月、最長6ヶ月間の補助)など、家庭との両立がしやすい制度も複数取り入れており、「プラチナくるみん」の認定も受けています。

・新たな人事制度の導入により働き方改革を推進(ソフトバンク株式会社ホームページより)
・アサヒビール株式会社|企業データ詳細(厚生労働省一般事業主行動計画公表サイトより)
・アステラス製薬株式会社|企業データ詳細(厚生労働省一般事業主行動計画公表サイトより)

まとめ

いかがでしたか?
今後も働き方改革が進み、ますます社員ひとりひとりを尊重した働き方が求められると思います。また、高齢化や働き手の減少により、介護との両立や生産性の向上についてあらかじめ準備を進めていくことも不可欠になるかもしれません。今回ご紹介したフレックスタイム制の基本的な仕組みやメリット・デメリットなどを参考に、フレックスタイム制の導入を検討してみはいかがでしょうか?

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プロモG 伊藤

この記事の執筆者:伊藤(プロモーショングループ)

2021年5月にドリーム・アーツに入社し、 プロモーショングループに配属。
SmartDBやShopらんのプロモーション活動をおこなっています。日々新しいことの連続で、勉強中です!
これからも皆さんの役に立つような情報を発信していきます!