タスクフォース(Task force)とは組織内部で緊急性の高い課題の解決や企画の開発などをおこなうために一時的に構成された組織のことです。一般的にタスクフォースのメンバーは、組織内の各部署から選出されます。
今回の記事はタスクフォースの基本概念から、実際の進め方・活用事例などをご紹介します。経営者やマネージャーなど、リーダーの観点では業務改善の施策を具体的に進める上でのヒントとしてご活用いただけます。また、人事部の方にとっても人財マネジメントの観点から、多くの気づきにつながる内容になりますので、ぜひご覧ください!
タスクフォースとは
タスクフォースの目的
タスクフォースはもともと軍事用語で、軍隊がある特定の任務を遂行するために編成される機動部隊(チーム)のことを指しますが、現在ではビジネスにも活用されています。組織内部で緊急かつ重要な課題を解決するために一時的に編成され、課題を達成した時点で解散となるチームを指す場合によく使われます。 タスクフォースでは前述のとおり、緊急な課題に対し迅速な解決が求められます。そのため、社内の各部署から選出されたメンバーは通常の企業活動と切り離されて活動を進める場合が一般的です。能力の高いメンバーが結集し課題解決に向かうことで、部門間の連携が強化され、会社全体の課題を迅速かつ効果的に解決できます。 また、タスクフォースは緊急の課題解決だけでなく、業務改善や組織改革を目的とすることもあります。
タスクフォースの役割
一般的な日本企業では、機能型組織と呼ばれる機能ごとに部門を編成する組織形態が採用されています。この形態では、「部門横断でのコミュニケーション不足」や「命令・報告システムの冗長化」といった問題が発生しがちです。これらの問題を回避し、迅速かつ効果的に課題を解決するためにタスクフォースが活用されます。
タスクフォースには大きく以下2つの役割があります。 ・部門横断での活動を促進 機能ベースで分業する機能型組織では各部門が異なる役割を担っています。各部門で専門知識が蓄積されやすい一方、部門間のコミュニケーションが不足になりがちです。 そのため、複数の部門が協力しなければならないような緊急の課題に向けた活動には、通常の機能型組織では対応しにくい場面が多く発生します。タスクフォースの導入により、各部署から適任なメンバーが集まり、部門横断での活動を促進できます。
・意思決定の迅速化 上記の組織図の縦横を結ぶ線のことを「Reporting line」と呼びます。「Reporting line」は組織内でレポート(報告)するプロセスを示す線です。社内の公式的なやり取りはすべてこの「Reporting line」に沿って進みます。 「Reporting line」上にない部門や関係者において直接の指示や報告のやり取りは発生しません。 機能型組織の場合、この「Reporting line」は冗長化しやすいため、緊急かつ複数部門にまたがっての対応が必要な案件には不向きとなります。たとえば、あるプロジェクトの担当者が会社全体に関する緊急の課題に向けて社内調整を進めようとした場合、機能型組織では部内・部門間での「Reporting line」を通る必要が発生します。すべての調整において上長への報告が必要になるなど、時間がかかってしまい、意思決定が遅くなりがちです。 このような状況に対応するため、対応期間が短くて緊急度も高く、集中して取り組まなければならない課題の解決には、タスクフォースの導入が役立ちます。
タスクフォースの類似語
タスクフォースに類似した言葉として「プロジェクトチーム」「ワーキンググループ」「ワーキングチーム」「クロスファンクショナルチーム」があります。
・プロジェクトチーム タスクフォースのほうが緊急性の高い要件のためのチームという意味を持っていましたが、近年では問題の解決や課題の達成を目的とするという点でほぼ同義に用いられています。プロジェクトチームはタスクフォースと比べて長期間にわたる大きなテーマを扱う場合に用いられることが多いです。
・ワーキンググループ、ワーキングチーム 特定の問題を解決するために作られる組織のことで、タスクフォースとほぼ同義で用いられます。ワーキンググループ・ワーキングチームは、長期的な目的のために組織されることが多く、継続的に業務運用をおこなうことが特徴です。
・クロスファンクショナルチーム クロスファンクショナルチームは課題の中でも特に「全社的」なものを解決するために作られたチームです。既存の組織にとらわれることなく、随時、組織横断的に編成されます。
タスクフォースのメリット
緊急性の高い課題に迅速に対応できる
タスクフォースは解決すべき課題が明確になっており、その課題解決に対して必要なスキルを有するメンバーが集められるため、迅速な対応が可能となります。
組織横断型プロジェクトの推進が可能になる
タスクフォースは緊急性の高い課題だけでなく、DXやサステナビリティ推進、新製品開発など組織横断型プロジェクトの推進にも召集されます。多様な人材が集まることで、革新的なアイデアが生み出されます。
リーダーシップやマネジメント力の強化につながる
タスクフォースのメンバーは、経営陣を含む複数の社員で構成され、重要課題を解決するために事業戦略について検討を重ねることにより、リーダーシップやマネジメント力の強化につながります。また、組織横断型プロジェクトは長期的なスパンを視野に入れるため、タスクフォースで次世代の有望な人材に対してリーダーシップの育成をおこないながら、組織力を強化する取り組みも可能です。
タスクフォースのデメリット
ノウハウとして蓄積しにくい
タスクフォースは、招集から解散までが短期間になるため、そこで得られた知識やスキルなどのノウハウが組織に蓄積されにくい面があります。ノウハウを蓄積し、ほかのプロジェクトに活かせる仕組みを構築することが課題となります。
通常の業務に支障が出ることがある
タスクフォースのために各部署から人材が抜けることで、一時的な人員不足になり業務に支障が出てしまう可能性があります。人材の補填など、サポート体制をどのように構築するのかが課題になります。タスクフォースの目的によってはメンバーは社運を賭けた重責を担うことになるため、サポート体制の構築も会社全体で取り組むことが重要です。
サポート不足により不安が起こりやすい
タスクフォースにトップ層や経営陣からのサポートがなければ、リソース不足や人事考課における不安といった問題を引き起こす可能性があります。メンバーが元の部署に籍を置きながら活動する場合は、元のメンバーと一緒に作業できる時間や場所を確保するようにしましょう。
タスクフォースの進め方・ステップ
課題の明確化とメンバー選定
経営陣やマネージャーは、チームメンバー選定の前に、今直面している課題がどのようなものであるか、ゴールをどこに設定するのかを明確にしましょう。 解決すべき問題に合わせて、必要な技術力や対人スキルを持ったメンバーを選定しましょう。単に各部署で「優秀」とされる人材を集めても、課題の解決に必要な能力が不足しているようでは意味がありません。リーダーにはマネジメント能力やリーダーシップを備えたメンバーを選びましょう。メンバーは相互にスキルを補完するよう構成し、具体的な業務にタスクを落とし込む過程で、都度必要なメンバーを追加していく方法もあります。
方向性とスケジュールの共有
チームには多様なバックグラウンドの人材が集まります。価値観や方向性、規範が共有されていないと行動に統一感を持てず、非効率な活動となってしまいます。そのため、重要な方向性や価値観はルールとして明文化しておきましょう。また、解決までの段取りやスケジュールもある程度明確化する必要があります。それらを明確にしたうえで関係者に周知し、認識を合わせることも大切です。なお、スケジュールは、週に2時間程度の活動や半年ごとの開発基準改定など、無理のないものにしましょう。
権限委譲
緊急性の高い課題解決のために編成されたタスクフォースは、迅速かつ柔軟な対応力が求められます。タスク遂行のための権限をタスクフォースのメンバーに付与することが必須です。経営陣やマネージャーはタスクの重要性や緊急性に合わせて適切な権限委譲をおこないましょう。気軽に発言できる雰囲気を作り、メンバー全員に発言の機会を与えるなど、人の意見を否定せず自信をなくさないようにすることも推進のポイントです。
モニタリング
課題解決の状況を把握するために、定期的なモニタリングが必要です。タスク遂行の段階ではメインの課題以外にも細かな課題も多く出てくるはずです。活動中に生じた改善点や課題、具体的な施策などを詳細に把握することで、今後の解決手法の精度向上につながります。
ノウハウの共有
タスクフォースの活動中に得られたノウハウは、適宜社内組織に共有するようにしましょう。課題の解決に向けて優れたメンバーを結集したタスクフォースでも、過去と同じ活動をしていてはリソースを無駄にしてしまいます。類似の課題が出たときに迅速に解決できるように、対応や解決策を記録し、積極的にノウハウを明文化していきましょう。
解決と振り返り
課題解決と同時に解散となるタスクフォースでは、得られた知見を組織運営に活かしにくいです。活動後は、活動中に生じた改善点や課題、具体的な施策などを詳細に振り返りましょう。タスクフォースを引き継ぐ組織を新たに構築し、組織内教育や研修に活用していくことも効果的です。
タスクフォースの進め方を紹介してきましたが、情報共有や意思決定のスピードを上げるためには、業務基盤も重要です。例えば、社内の申請業務が紙運用の場合、決裁や進捗確認に時間がかかり、意思決定が遅くなります。また情報がExcelで管理されている場合、最新情報の一元化が難しく、集計や報告用の情報を取りまとめる作業にも時間がかかります。紙業務やExcel管理から脱却し、業務デジタル化ツールを導入することがタスクフォースをスムーズに遂行する有効な手段となります。
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タスクフォースの企業事例
最後に、タスクフォースを導入した企業の事例をご紹介します。
マクドナルド「お客さま対応プロセス・タスクフォース」
015年に、日本マクドナルドが店舗で販売した商品に異物が混入していた事件が発生しました。それをきっかけに「お客さま対応プロセス・タスクフォース」を設置。会社としての最優先事項として、CEO直轄で品質保証、法務、お客さま対応、オペレーションなど社内各部署の代表メンバーで構成したタスクフォースとして取り組みを開始しました。お客さまからのお問い合わせについての対応プロセスをあらためて再検証し、さらなる改善点を見つけ、2015年1月から4月まで、わずか4か月でお客さま対応とサービスの品質を向上できました。
ウェルクス「社内交流推進タスクフォース」
企業規模拡大に伴い、社内コミュニケーションが希薄になり会社の戦略や課題に対して一人ひとりが当事者意識を持ちづらくなるといった問題は、多くのベンチャー企業が抱えているのではないでしょうか。転職支援サービスを展開するウェルクスでは、上記のような問題の解決にタスクフォースを導入しました。「社内コミュニケーションコストの軽減」をミッションとして、「社内交流推進タスクフォース」を立ち上げて、社内パブの開催などに取り組みました。結果として、社内でのコミュニケーションにおける心理的コストを軽減し、部門を越えた一体感のある状態を実現できました。
味の素「全社オペレーション変革タスクフォース」
味の素は、社員一人ひとりのASVエンゲージメントを向上させるために、「全社オペレーション変革タスクフォース」を結成しました。「ASV」とは「Ajinomoto Group Shared Value」の略語であり、“創業以来一貫した、事業を通じて社会価値と経済価値を共創する取り組み”のことを指します。 参加メンバーは、対話・議論を通じて企業アイデンティティに対する共感を深め、会社へのエンゲージメントを引き出すことを目指しました。その結果、社員一人ひとりが自分の仕事を通じてASVを実践していく意識を醸成でき、会社へのエンゲージメントを強化できました。
日本航空「JAL再生タスクフォース」
社内の精鋭チームではなく行政主導でおこなわれたタスクフォースの事例もあります。
2009年に日本航空(JAL)でおこなわれたタスクフォースは「JAL再生タスクフォース」と呼ばれ、事業再生の専門家5名からなる国土交通大臣直轄の顧問団が、日本航空の経営再建のための資産査定および再生計画策定・実行のために設置されました。結果、2012年9月に日本航空は再上場を果たしました。
このように、タスクフォースは内部のチームだけでなく、外部の専門家や行政機関の支援を受けて実施されることもあります。これにより、企業は多角的な視点から課題を解決し、持続可能な成長を実現することができます。
「JAL再生タスクフォース」参画者の冨山氏・「DXの思考法」著者の西山氏・弊社代表とのDXに関する対談はこちら
まとめ
現在、社会の複雑性や不確実性が増すVUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity) がさらに加速した「Super VUCA時代」が訪れています。そのような時代において、市場の変化や競争が一層激しくなります。企業が激しい競争に生き残るためには、優先度の高い課題を見極め、それらを解決するためのスピーディーな意思決定と実行力が不可欠です。タスクフォースを効率的に活用し、業務改善や組織改革を実現しましょう!
この記事の執筆者:楊 溢(プロモーショングループ)
新卒でドリーム・アーツに入社 2021年からプロモーショングループの一員になりました。 記事執筆は初心者ですが、おもしろい海外情報を発信していきたいと思います!