「SmartDB」利用 約10年で内製化にチャレンジ
業務デジタル化のスピード向上&コスト削減

「SmartDB」利用 約10年で内製化にチャレンジ   業務デジタル化のスピード向上&コスト削減
日本航空株式会社

業種 空輸
従業員数 12,726人(2022年3月現在)
導入時期 2012年
TOPICSTOPICS
  • デジタル化の壁、「コスト・スピード・人財」を乗り越えるには?
  • SmartDBによるノーコード開発で内製化にチャレンジ
  • 初作成の業務アプリで承認スピードは1/10、ガバナンス強化にも
  • 現場の想いを叶える「デジタルの民主化」、JALグループ全体のデジタル化の素養に
 

業務部門自らがシステムを構築する「デジタルの民主化」に注目が集まっているが、日本航空では2012年から利用するノーコード・ローコード開発ツール 「SmartDB(スマートデービー)」の開発は外部ベンダーに委託していた。導入から約10年が経過した今、内製化にチャレンジし、次々とスピーディーかつ低コストな業務デジタル化を実現している。その取り組みに至った背景や今後の展望について伺った。

デジタル化の壁、「コスト・スピード・人財」を乗り越えるには?

日本を代表する航空会社、日本航空(JAL)。JALグループは「世界で一番選ばれ、愛されるエアライングループ」となることを目指し、国内線133路線、国際線58路線(2021年3月時点)を運航している。

2022年5月、JALグループは「2021-2025年度 JALグループ中期経営計画」の達成をより確実なものとするため、「ローリングプラン2022」を策定した。「安全・安心」「サステナビリティ」を柱に、激変する世界情勢へのレジリエンスを高めるESG戦略の推進が打ち出されている。持続的な成長を目標にするESG戦略において、「人口減少」という日本の社会問題は避けて通れない課題だと、コーポレート部門のデジタル化を担う下田朋彦氏は話す。

IT企画本部 IT推進企画部
一般管理グループ グループ長

下田 朋彦

「長期的に見て、人材を増やすことが難しくなるような時代が訪れることでしょう。たとえ人が減ったとしても、今以上に効率的な業務をしていくためには、デジタルの力が必要です。また、コロナ禍をはじめとした大きな社会情勢の変化に対しても、柔軟に対応していかねばなりません。新たなデジタル化のあり方を、模索し続けていました」(下田氏)

コロナ禍はJALのIT部門にとっても、新たな選択を迫ることになったと、木村明美氏は続ける。

「テレワークが推進される中、さまざまな部門から『この業務のデジタル化をしたい』という要望が多くありました。しかし、そのすべてに応えるには、人も時間も資金も、十分な状況ではありませんでした。必要な要件を整理して、システム開発会社に見積もりを取って、稟議決裁を経て発注し、開発するというプロセスは非常に時間がかかります。当然ながらIT投資においても、その都度、費用対効果を示す必要があります。大きなプロジェクトならまだしも、数多くある小さい業務までこれらを実施することは困難です。どうすればスムーズにデジタル化していけるのか。大きな課題となっていました」(木村氏)

こうした課題認識の下、JALグループのデジタライゼーションを担うツールの一つとして選ばれたのが、ドリーム・アーツの提供する「SmartDB」だった。

SmartDBによるノーコード開発で内製化にチャレンジ

JALグループは2012年から、「SmartDB」を利用している。本社のIT本部および、グループ会社のJALインフォテックが、受発注管理やITに関わる費用管理、システムに関する情報管理など、以前からERP周りの高度な業務で「SmartDB」を活用していたのだ。ワークフロー機能だけでなくWebデータベースも構築できるという「SmartDB」の利点から、その後、商品企画部を皮切りに他部門にも利用が広がっていった。ただし、開発を担うのはあくまでもJALインフォテックのエンジニアであり、ユーザーが自ら必要なシステムを開発する「デジタルの民主化」はできていなかった。

デジタル化への要望が膨らんだ今、ノーコード・ローコード開発は本当に現場でもできるのだろうか? JALのIT部門はそれを検証するために、「SmartDB」による「開発航空券」を業務アプリ化した。開発プラットフォームに「SmartDB」を選んだ理由について、下田氏は次のように答える。

「SmartDBを選んだ大きな理由は、高度なことまでノーコードで開発できることでした。たとえば同じ業務であっても、営業部が見たい情報と、経理部が見たい情報は異なります。部門を超えたワークフローやイレギュラーな権限対応も、SmartDBであれば部品を組み合わせるだけで構築することができました」(下田氏)

開発航空券とは、販売促進を目的として飛行機に乗ってもらうための航空券だ。これまでの業務フローでは、専用の複合紙に取引先の名前や、便名、搭乗日、航空券番号などを記入し、社内郵便で次の承認者へ送っていた。場合によっては、発券に2週間はかかっていた。承認スピードを早めるとともに、情報セキュリティを強化させるためのデジタル化は急務だったのだ。

開発航空券(K-Ticket)アプリケーションシステム「K-TAS」の構築を担当したのは木村氏。これまで、プロジェクトマネジメントは担当しても、実作業としてシステムを作ったことはなかった。

「正直、ドリーム・アーツ様のハンズオン研修を受ける前は、本当に自分が開発できるのか不安でした。しかし実際に研修を受けると、非常に分かりやすく、楽しみながら学ぶことができたため、その不安も解消されました。研修後も豊富にある機能を自ら調べて試してみる等、ワクワクしながら進めいくことができました。また、エンジニアの方々が、ユーザーに対して何を求めているのか、どのような考えで開発を進めていたのか、これまで疑問だったことが、実際に自分で体験することによって見えてきました」(木村氏)

IT企画本部 IT推進企画部
一般管理グループ

木村 明美

K-TAS開発のプロジェクトは前半・後半に大別できる。前半は、業務部門の各代表者から現行の運用をヒヤリングし、整理してシステムに合う業務プロセスに落とし込んでいく作業。そしていよいよ後半は、「SmartDB」による構築作業だ。

「データベースやプロセスの作り方をハンズオン研修で学び、そこから要件定義書をもとに作りこんでいきました。
まずは5割くらいの完成度で見てもらい、フィードバックを受けながら固めていく『アジャイル開発』を心がけた結果、開発自体は1,2ヵ月で完了することができました」(木村氏)

初作成の業務アプリで承認スピードは1/10、ガバナンス強化にも

K-TAS画面イメージ

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K-TAS画面イメージ

木村氏が「SmartDB」によって開発したK-TASは、開発航空券が発行されるまでのスピードを格段に速めた。従来1~2週間かかっていたものが、最短で1日、遅くとも3日で済むようになったのだ。さらに、システム化は、ガバナンスやセキュリティを大幅に強化することにもつながった。

「K-TASを使えばデータのトレースも容易で、開発航空券の業務フローに対して、いつ・だれが・何をしたのか、瞬時に検索できるようになりました。また、実際に申請するユーザーからは『迷わず入力できるようになった』という嬉しい声をもらっています。これまでは担当部門によっては対応不要な記入欄もすべて見えていたのですが、今回のシステムでは権限設定によって、担当部ごとに必要な入力欄だけ表示されるようにしています。画面自体のデザインも、ユーザーフレンドリーにこだわってつくったので、それが伝わったことも嬉しく思います」(木村氏)

「これまでは、自ら開発していないが故の問題を感じることがありました。外注先が業務要件をシステムに反映するためにどのようにロジックを整理しているのか分からなかったり、スムーズなコミュニケーションが取れていないと感じることがあったのです。今回、SmartDBによる開発ができたことは、『エンジニア視点』を身につける上でも貴重な経験だったと感じます」(木村氏)

「SmartDB」で業務アプリ開発を内製化することによって、時短・コスト削減が可能かどうか検証するための試みでもあったK-TAS成功は、JALグループにさらなるデジタル化施策をもたらすことになる。
同時期に、業務アプリ開発を内製化するための組織として、新たに“Lapli(ラプリ)”というチームが立ち上がりました。メンバーは業務改善の案件を持ち寄り、最適なツールを選び、現場と一緒にシステム開発をしていくような体制となっています。これまでにSmartDBでERPの組織権限申請や社員ID発行などをシステム化してきました。出社しなければならない紙申請が、続々とリモートでも可能になっています」(下田氏)

Lapliの一員となった木村氏は、現在、整備本部と共に「部品を輸出する際の可否判定」のシステム化に取り組んでいる。自らの手でシステムを構築することに対しては、現場も意欲的だ。

「要件定義と私からのハンズオン研修が終わり、いよいよユーザー自らがつくってみるという段階です。打ち合わせや研修の段階から主体的に取り組んでいることがうかがえますし、『自分たちで作ってみます!頑張ります!』という、熱意のあるメッセージをもらっています」(木村氏)

現場の想いを叶える「デジタルの民主化」、JALグループ全体のデジタル化の素養に

今後は、「SmartDB」による開発手法を現場にレクチャーしていくだけでなく、「業務整理」の考えを浸透させていきたいと、木村氏は熱く語る。

「K-TASは従来の業務をそのまま置き換えただけの業務アプリにはなりませんでした。『そもそも、このプロセスは重複していないか?』という事実に気づき、プロセスを短縮できたのです。デジタル化が、ビジネスプロセスそのものを見直すきっかけとなりました。こうした業務整理の考えがJALグループ全体にさらに広がっていけば、より大きな効果が生まれると思います」(木村氏)

「SmartDB」は小さな業務のみならず、より大きく高度な業務にも対応した業務デジタル化プラットフォームである。そんな「SmartDB」を、今後はさらに応用していきたいと下田氏は言う。

「SmartDBは非常に安定的なプラットフォームですので、今後は応用を一歩進めて、基幹系のシステムもアジャイルで開発していきたいと考えています。そうすることで『社会変化に柔軟に対応できる仕組み』に近づけるのではないかと考えています」(下田氏)

最後に、下田氏は、JALグループのデジタル化について、次のように展望した。

「我々は『楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する』というJALフィロソフィを持っています。この行動哲学に則ってLapliの活動を拡大していき、知見の共有や、社員に対する教育を継続していきます。いずれはJALグループの全員がデジタル化の素養を持って、積極的にIT業務改革を進めていける。そんなことを起こせる組織にしていければと思います」(下田氏)

JALのIT部門は、「SmartDB」の活用によって、小さな業務の効率化だけでなく、グループ全体にデジタル化のマインドをもたらすという、大きなうねりを生み出しつつある。真のデジタルトランスフォーメーションが、ここから始まっていくのだろう。

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※所属部署、役職、インタビュー内容は取材当時のものです。

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