LIXILトータルサービス牧野社長が目指す「リフォームシフト」
-デジタルの民主化で生みだす新たな価値-

LIXILトータルサービス牧野社長が目指す「リフォームシフト」-デジタルの民主化で生みだす新たな価値-
株式会社LIXILトータルサービス

業種 建設/不動産
事業内容 住宅用およびビル用の住宅設備機器・建材の販売・加工・施工、アフターメンテナンス、 建築工事の設計・施工管理および請負
導入規模 全社導入
従業員数 2,667名(2023年4月1日現在)
導入時期 2021年11月
TOPICSTOPICS
  • 市場や業務の変化へ迅速に対応できるノーコードのデジタル基盤による業務プロセス標準化を実施
  • 「現場を知る」メンバーをキーマンとし、業務の見直しとアジャイル型プロセスによるシステムの企画、構築、運用を実現
  • 申請ワークフローのデジタル化で、年間36,000件にも及ぶ申請業務シンプル化・標準化により、約5,000時間の業務削減を達成。「デジタルの民主化」を促進する企業文化醸成にも貢献
 

「リフォームシフト」に向けたLIXILトータルサービスの “顧客・スキル・働き方” 変革

LIXILトータルサービスは、住宅設備機器・建材の工事、リフォーム、メンテナンスなど、多岐にわたる市場ニーズにワンストップで対応するため各業務を専門に手掛ける6企業が統合して2013年に誕生した。LIXILが製造する住宅設備機器などの商品は、建物への取り付け工事があってはじめて機能する。また、商品を長期間にわたって稼働させるためには、高品質なメンテナンスも欠かせない。その意味で、LIXILトータルサービスは「メーカーであるLIXILとエンドユーザーとをつなぐ」という、重要な役割を担う。

LIXILは事業パーパスに「世界中のだれもが願う、豊かで快適な住まいの実現」を掲げる。LIXILトータルサービスでは、そのパーパスを受け主に国内においてユーザーの生活をより豊かにし、体験価値を向上するためのサービスを提供している。

代表取締役社長

牧野 秀樹

「アフターコロナにおいて、お客さまがあらためて自分たちの暮らしを見つめ直す機会も増えています。そうしたなかで、お客さま自身も気づいていないようなところからアイデアを発掘し、価値として提供していこうとしています」

そう話すのは、LIXILトータルサービスの代表取締役社長である牧野秀樹氏だ。設立から10年の節目を迎え、同社では、近年拡大しているリフォーム市場への注力を強めるため「リフォームシフト」を方針として掲げている。牧野氏は、この「リフォームシフト」実現のため社内で「3つの変化」による改革を進めていると話す。

「一つ目は“顧客”の変化です。LIXILは、伝統的にメーカーとして建設業者を“顧客”として商品を販売してきました。しかし、リフォーム市場での“顧客”はエンドユーザー、一般消費者です。エンドユーザーこそがわれわれのお客さま、つまり“顧客”であるという意識を根付かせたいと考えています。二つ目の変化は“スキル”です。リフォーム市場でお客さまに最大限の価値を提供するためには、これまでに手がけてきた施工やメンテナンスとは少し異なる“スキル”が求められます。施工などの技術的なスキルだけではなく、業務効率化のためのデジタルスキルのような、これまでとは異なる新たな“スキル”の獲得と育成を通じて、サービスの向上を図っていきます。三つ目は“働き方”の変化です。多様化が進む社会へ対応やリフォーム市場で多様なお客さまへ価値提供をするため、企業としてもダイバーシティを推進しています。その一環として、柔軟性の高い“働き方”のへの変化を推進しています。この“顧客・スキル・働き方”の変化によって、リフォームシフトを実現する。それがLIXILの求めるLIXILトータルサービスの価値になると思っています」(牧野氏)


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リフォームシフトの概念図

社員に加え、業務上のパートナーを含む多くのステークホルダーとリフォームシフトによる価値を共有し、これらの変化を実現していくことが、現在の大きなチャレンジになっているという。

業務システム群の統合と「デジタルの民主化」が課題解決のカギに

同社は、このチャレンジを達成するうえで、LIXILが経営戦略の一環として掲げている「デジタルの民主化」が重要な鍵を握ると捉えている。これは「システムを“作る人”と“使う人”」という従来の区分けをなくし、現場で日ごろ業務に関わっている社員自身が、システムづくりに参画できる状態を表す。これにより、業務への適合性が高いシステムが開発でき、ビジネス環境や業務プロセスの変化にも迅速に対応でき、システムが生みだす価値を最大化していくことが容易になる。LIXILトータルサービスも、この考え方に賛同し、社内にデジタル推進部を設置して、「デジタルの民主化」に向けた取り組みを進めている。

さらに、この取り組みの背景には、統合以前の個社で使われサイロ化が進んだ業務システム群の速やかな統合と、そこに蓄積されているデータ活用レベルの向上を目指したいという思いもあると、牧野氏は言う。

「統合後も、個社で使われていたシステムは、基本的にそのまま使われ続けてきました。それらには、スクラッチで作られたものが非常に多くあります。そのため、必要な変更や改善も、自分たちの力だけでは難しく、半ば諦めていたような状況でした。しかし、リフォームシフトを目指し、顧客を軸として一貫したサービスを提供していくためには、サイロ化したシステムから段階的に脱却しなければなりません。特に業務に関わる部分については、自分たちの手でニーズに合ったものを作り、改善しながら使っていく環境が必須だと考えました。幸い現在は、そうした“デジタルの民主化”を可能にする、さまざまなノーコード・ローコードのツールが市場にあります。それらをうまく活用することで、システムだけでなく、仕事の進め方も新しいものへと変えていけるのではないかと期待しました」(牧野氏)


ノーコード・ローコード開発が可能な「SmartDB」で内製による申請業務のデジタル化を実現

LIXILトータルサービスでは、この取り組みを進めていくための業務デジタル化基盤として、ドリーム・アーツの提供する「SmartDB」を導入している。

同社のデジタル推進部で部長を務める秋山純氏も牧野氏同様、システムのサイロ化による課題を感じていた。SmartDB導入の目的には「統合以降、本格的に進められずにいた業務プロセスの標準化、最適化と、そのためのシステム統合の促進」があったとする。

「個社から継続するそれぞれの業務プロセスと、そのために個別最適化されたシステムを使い続けてきたことで、社内には、類似した業務が多数存在していました。さらに、システムそのものの老朽化も進んでおり、モバイル対応などを含む部分的な改修、運用管理なども年々難しくなっている状況でした」(秋山氏)

デジタル推進部 部長

秋山 純

同社ではまず、個別のワークフローシステムやメールによるやり取りによって進められていた業務を、新たなシステム上で標準化することに着手した。ツール選定にあたっては「デジタルの民主化」を前提に、「標準機能だけで、自分たちがありたい姿を実現できるかどうか」を最も重視したという。

「近年、ノーコード・ローコードツールは多く存在しています。比較検討を進める中で、セキュリティ、可用性といった項目については、すでに基本的な要件となっており、この部分では大きな差がつきませんでした。そこで、ベンダーがそのツールに標準で用意している機能で、われわれが求める業務要件をどこまで実現できるかを判断基準にしました。要件の実現にあたって、基盤自体に手を入れるような開発が必要であれば、それはスクラッチと変わりません。基盤自体のバージョンアップへの対応にも工数がかかります。今回の大きな目的であった、ワークフローによる業務の標準化を考えた場合、SmartDBは、われわれのニーズに最も合ったツールでした」(秋山氏)

「SmartDB」による開発は、デジタル推進部に所属する3名の社員が中心となって進めた。当初は、各現場でのヒアリングから、社内の業務プロセスの見直し、部門間で統合できる部分や効率化できる部分の検討などをおこなった。本格導入を決定するための先行プロジェクトには、在籍社員の持つスキル情報を確認するための「スキルチェック業務」を選定し、並行してドリーム・アーツのサポートを受けながら、「SmartDB」の設定方法についても習得していった。

「プロジェクトのメンバーには、役割分担やタスク進捗管理にとらわれすぎず“トライ&エラー”で進めるよう伝えました。最初から100%の完成度を目指さず、できた範囲で迅速にリリースし、それに対する現場のフィードバックを受けて改善していくという“アジャイル”的な開発の進め方を体得してほしかったのです。そうした開発プロセスを実践しやすいという点でも、ノーコードツールであるSmartDBは、われわれのニーズに合っていました」(秋山氏)

先行プロジェクトと並行し、年間約36,000件が発生している「申請業務」のデジタルワークフロー化にも取り組んだ。「SmartDB」導入の企画承認から、一部部門での先行導入までを約半年で実施、その後旧システムからの移行による全社導入をさらに半年、全体約1年という短期間で完了させた。


年間5,000時間の業務削減に成功-さらなるデジタル化やデータ活用も視野に

業務全体の見直しと、「SmartDB」によるワークフローのデジタル化を通して、同社では申請業務全般にかかる作業時間を、年間で約5,000時間削減することに成功している。また、承認待ち時間は50%削減され、より効率化・スピードを上げた活動が可能となった。
サイロ化したシステムを「SmartDB」に統合することで、業務の標準化の面でも効果が出ている。統合以前は30もの申請業務が存在し、重複申請や誤ったフォームでの申請、誤入力による差し戻しが発生していた。これが統合後は申請フォーム数が70%削減、入力項目数は30%削減され、結果として誤申請による差し戻しが84%削減された。

プロジェクトの成果は、業務の効率化、標準化といった当初の目標達成に留まらず、「デジタルの民主化」という企業文化の醸成にも寄与していると、秋山氏は語る。

「SmartDBによる今回のプロジェクトは、デジタル推進部のメンバー3名が、自分たちで企画、設計、開発、運用すべての工程に関わったことで、非常に愛着が強いものとなりました。また、現場ユーザーが自分たちの声として改善要望を挙げ、それがすぐに反映される環境ができたことは、彼らが、自分たちの業務にとって価値の高いものとしてシステムを使いこなしていく意識を高める上で、良い影響を与えています。デジタル推進部と業務現場のコミュニケーションもより活発になっています」(秋山氏)

牧野氏もこれらの成果を高く評価しているという。

「“デジタルの民主化”におけるキーマンは“自社の業務や現場を良く知っている人たち”です。彼らのように、現場をよく知り、かつ自らデジタルを活用した業務改善を進めていく人材を社内で増やしていくための道筋が、SmartDBによって作られたと考えています。今回のプロジェクトではすでに、業務時間削減の面で大きな効果が出ていますが、私としては社員それぞれが、捻出されたその時間を“デジタルの民主化”や“リフォームシフト”のレベルを高めるための新たな活動に充ててほしいと願っています。そうすることで、SmartDBの導入効果は、今後さらに拡大するはずです」(牧野氏)

同社では、新たなデジタル業務基盤として導入した「SmartDB」の活用範囲を、申請ワークフローのみに留まらず、ほかの業務領域にも拡大していくことを計画している。また、既存業務システムとのAPI連携なども視野に入れながら、さらなる業務改善や効率の向上、各システムに蓄積されたデータの統合分析、業務へのデータ活用にもチャレンジしていく意向だ。

「建設業界のデジタル化は、まだ遅れていると思っています。今後は顧客だけではなく、建築現場をよりサポートすることに対しても、デジタルを活用していきたいと考えています。LIXILトータルサービスは、全国で年間数百万件の工事・メンテナンスを担っています。その一つひとつの品質を建築現場のデジタル活用によってサポートすることが非常に大切です。また、LIXILはグローバル企業です。弊社はまだ国内の会社ですが、もしかしたら少し遠い未来には海外に対して、我々のノウハウや技術を遠隔でサポートできるようなことも可能になると思います。そのときにデジタルの力がさらに活きると考えています」(牧野氏)

※所属部署、役職、インタビュー内容は取材当時のものです。

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