その他周辺事業
- 年間 約10万件の検体数、170種類の検査基準に対応できるクラウドサービスを採用
- 業務担当者によるアプリ開発で検査方法の変更や組織改編などの変化に対応可能
- 今後はそのほかの業務での利用拡大や台湾すかいらーくへの展開を予定
食品の「安全・安心」を守る国内トップクラスの品質管理体制
1962年に創業し、「ガスト」「バーミヤン」「ジョナサン」「夢庵」をはじめとする20以上のブランドで国内外に約3,000店舗のレストランを展開する「すかいらーくグループ」。同社において、消費者に提供する食品の「安全・安心」を守るためのあらゆる業務を手がけるのが管理本部の品質管理グループである。
品質管理グループでは、社内衛生教育の啓蒙活動、店舗・工場の抜き打ち衛生検査、メニューのアレルゲンや栄養成分情報の開示、店舗・工場従業員の個人衛生・社内衛生管理ルール作成といった広範な業務をおこなう。なかでも、店舗で消費者に日々提供される食品の安全性を担保する上で重要な役割を果たすのが「食品検査」業務である。
<品質管理グループの立ち位置>
食品検査のなかでも「細菌検査」に必要な検査基準は約170種類にも上る。外部購入する原料や製品、自社工場で製造する商品、店舗で下ごしらえをする商品のそれぞれを対象とした検査を毎日実施しているという。問題があった場合は、店舗・工場への衛生指導、原因の究明と対策を実施するほか、基準値を超える細菌が検出された食材については店舗に対し「使用禁止」の対応もおこなう。
管理本部 品質管理グループ
理化学分析室 スタッフリーダー
宮内 博史 氏
「食品や外食の業界では、同じような体制で原料や自社工場で作った商品に対する検査をおこなっている企業は多いと思います。ただ、われわれの場合、全国10ヵ所の工場だけではなく、各地にさまざまな業態で多くの店舗を展開しているため、業務の多様性や規模は国内有数だと思います」(宮内氏)
そう話すのは、管理本部 品質管理グループで理化学分析室のスタッフリーダーを務める宮内博史氏だ。各部署が品質管理グループに検査を依頼する検体の数は、年間で約10万におよぶという。同社では、この「食品検査業務」を管理するためにフルスクラッチシステムを利用していた。
10年以上利用したフルスクラッチシステムの限界
導入時の業務要件に合わせてフルスクラッチで作られたシステムのため、当初の業務には問題なく対応できていたが、長年使い続けるなかで課題が顕在化していたという。
「会社の組織体制の変更や、検査の方法が新しくなるなどの大きな変化があったとき、それに合わせたシステム側の改修をしたくてもコストやかかる時間が膨大になるため、非常に難しくなっていました。このような状況をさらに良い方法で改善できないかと以前より考えていました」(宮内氏)
たとえば、宮内氏が所属する「理化学分析室」は、残留農薬や水分活性、アレルゲンなどの検査業務を専門におこなうチームとして2022年に新設された。このように新たな組織が発足された場合にも、システム側の対応が難しいためExcelなどの外部ツールを併用しながら、人手による運用が必要になるケースが多くなっていたという。
「なんとか業務は回せていたものの、将来にわたって発展的に使い続けられるシステムではなくなっていました」(宮内氏)
そのような課題感を抱えるなか、技術的な側面からも刷新を迫られる事態となる。旧システムはマイクロソフトの「Internet Explorer」を使用していたが、2022年に同ソフトウェアのサポートが終了。運用保守の観点からも新システムへの移行を早急に検討する必要があった。
膨大な量の検査項目を標準機能で管理できる「SmartDB」が本命に
2023年春からIT部門と品質管理グループによる移行先の検討が開始された。スクラッチによる開発は「最後の手段」として視野に入れつつも、ノーコード開発が可能なデータベース製品を中心に比較検討を進めたという。
「将来的な業務の変化にシステムを適応させていく上で、自分たちで改修のしやすいプラットフォームが望ましいと考えていました」(宮内氏)
製品の比較検討では、検査管理に必要な業務要件をどこまで標準機能で実現できるかを重視した。たとえば、検査結果の自動判定に必要な内部処理機能や大量の検査データを管理する画面表現などがそれにあたる。加えて、「食品検査では必要な情報のすべてを表現するのに最低300点のデータ項目を取り扱う必要があり、性能として耐えられるかという視点を含めてすべての条件に合致するのはSmartDB以外なかった」(宮内氏)という。
また、ドリーム・アーツからの提案内容も決め手のひとつだったという。先述のとおり細菌検査では食品の品目ごとに合否判定の基準が異なる。複数の細菌が検査対象となり、品目によって各細菌の合格基準が変動するため、システム上で検査結果を自動判定するためにはそれらを考慮したロジックを組み込む必要があった。主に細菌検査管理システムの作成を担当した、品質管理グループ 東日本衛生検査チーム 仙台検査室 スタッフリーダーの永田百合子氏は「細菌ごとの合否とそれに基づく総合判定の両方を表示する必要がありました」と話す。
管理本部 品質管理グループ 東日本衛生検査チーム
仙台検査室 スタッフリーダー
永田 百合子 氏
「ドリーム・アーツの担当者に“このような判定システムを作りたい”と話したところ、担当の方が仕組みの作り方をデモンストレーションしてくれました。導入の正式決定前に、具体的なやり方を見せてくれたことで“これならできるかもしれない”というイメージが持てました」(永田氏)
<実際の画面イメージ>
業務担当者が作成したプロトタイプを改善しつつ全拠点へ展開
正式導入に先がけ、永田氏が中心となって「SmartDB」による検査管理システムのプロトタイプを作成した。現場で日々検査業務に携わる永田氏にとって「SmartDB」での開発はなじみやすいものだったという。
「SmartDBでは、開発言語のスキルが不要です。Excelの関数処理を利用した経験はあったので、その延長のような感覚で開発を進められました。部品によってできることが決まっているため、まずは各部品の仕様を把握します。食品検査システムに必要な処理を設定する際は、部品を組み合わせてどのように表現するかを考えていきました。必要に応じてドリーム・アーツの担当の方にアドバイスをもらいながら作成していきました」(永田氏)
このように永田氏が改善しながら作成したプロトタイプは実際の業務で利用できると判断され、2023年9月には「SmartDB」の正式導入が決まる。以降、このプロトタイプをベースに、より多くのメンバーを巻き込みながら、本番のリリースに向けた開発作業が進められた。移行後の懸念事項を取りこぼすことがないよう、開発の方向性を共有するため、全国のプロジェクトメンバーを1ヵ所に集めた“合宿”形式での意識合わせもおこなったという。
「導入の正式決定までは、永田や私を含む一部のメンバーで進めていましたが、今後新しいシステムで業務をやっていく上で、プロジェクトメンバーのSmartDBに対する“向き合い度”を高めておく必要があると感じました。それぞれの現場で、新しいシステムの使い方を説明したり、業務マニュアルを作ったりする場合でも、SmartDBに対する最低限の知識は持っておく必要があります。開発の方向性のすり合わせだけでなく、知識向上と活用推進のきっかけとして合宿形式でのキックオフミーティングをおこないました」(宮内氏)
事前に作り込んだプロトタイプの完成度が高かったこともあり、導入が決まってから約4カ月で完成。一部拠点での試験導入を経て、2024年1月に全検査室での稼働がスタートした。
<実現した食品検査の業務フロー>
システム刷新と業務の見直しにより作業効率が向上
「SmartDB」では、組織や業務の変化にシステムを対応させていく際に、業務担当者によるアプリケーション作成や修正の容易さがメリットとなる。旧システムでは対応が難しく運用で回避していた作業の効率向上を実感しているという。
「さまざまなシーンで効率化できたと感じています。たとえばこれまでは共通の検査情報を都度入力する必要がありましたが、検査情報を一括で入力できるようになりました。 それ以外にも検査システムに対応していない新しい検査項目を検査システム外で管理したり、一部の合否判定を人が確認して判断したりしていました。 いまはそれらをシステムで自動処理できるようになっています」(永田氏)
作業ミスを未然に防止、より素早く正確なデータを蓄積可能に
新システムでは、従来は対応できなかった「入力項目の自動チェック」機能を実現している。
「検査結果の入力に対し、必要な項目が抜けていないか、正しい書式になっているか、チェックが必要な項目を見落としていないかなどをシステム側でチェックして、必要に応じて作業者に修正を促す通知機能を入れています」(永田氏)
これは、データの未入力や入れ間違いなど、従来は見過ごされていた可能性のある作業ミスを未然に防ぐための仕組みだ。入力項目をシステムによって自動的にチェックし注意喚起することで、入力ミスによる作業の手戻りや再確認の手間は減り、検査に関連するデータをより素早く正確に蓄積できると期待されている。
海外拠点への展開や他業務への利用拡大を計画
「SmartDB」には、ユーザーごとに表示言語を切り替えられる多言語対応機能がある。品質管理グループでは、食品検査システムや店舗の食品監査管理システムを海外の拠点に展開する予定だという。
「すかいらーくグループは、レストラン事業を台湾、マレーシア、アメリカなどに海外展開しています。まず台湾の拠点にSmartDBの食品検査システムや店舗の食品監査管理システムを適用し、業務のデジタル化を進めたいと考えています。台湾において定められている検査方法へ対応する必要があるほか、国内にはなかった用途についても要望が出ています。作り込んでいくなかで、もし日本でも活用できそうなものができれば、日本での展開などもできたらいいと思っています」(永田氏)
またほかの業務でも「SmartDB」を活用できないかを検討しているという。
「店舗の監査結果などもSmartDB上に集約し、過去のデータを含めて検索できるようにしていきたいですね。検査管理から、監査(チェック)の領域にも応用範囲を広げることで、業務の効率化や蓄積データの活用に寄与できるのではないかと考えています」(宮内氏)
宮内氏は、今回のプロジェクトにおけるドリーム・アーツのサポート体制を「ほかのベンダーにはなかったもの」だと高く評価した。
「システム開発に直接関わった経験がない人は、“ノーコードでアプリケーションが作れる”と言われても、不安や懸念が拭いきれないものです。ドリーム・アーツは、SmartDB導入決定以前の段階から、われわれの課題や懸念を聞き、必要な支援を提供してくれました。こうした対応はほかのベンダーにはなかったもので、われわれと同じような課題を持つ組織にとって、強力な訴求ポイントになると思います。引き続き、同様の姿勢でサポートしてもらえることを期待しています」(宮内氏)