【DX事例10選】デジタルトランスフォーメーション推進のポイントやメリットを解説

2018年以降バズワードとなったデジタルトランスフォーメーション(DX)。近年コロナウイルス感染症の流行とともに急速に社会に浸透し、デジタルトランスフォーメーション推進に向けて取り組む企業が増えています。しかし日本においてその成功事例は多くありません。今回はデジタルトランスフォーメーションについて、推進するためのポイントやメリット、日本国内の事例を紹介します。推進するためには正しくデジタルトランスフォーメーションを認識することが重要です。ぜひ最後までご覧ください。

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念です。日本では2018年9月に経済産業省から発表された「DXレポート」をきっかけに認知が広まり、今やビジネスシーンに定着しました。DXレポートの中で、IT専門調査会社のIDC Japan株式会社はデジタルトランスフォーメーションを次のように定義するとしています。

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること ― DXレポート(経済産業省 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会)

ITなど進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をあらゆる面でより良い方向へ変化させる」という概念がデジタルトランスフォーメーションの基本です。デジタルトランスフォーメーションがもたらすのは単なる「変革」ではなく、既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションということを認識する必要があります。

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デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進できている状態とは?

日本ではデジタルトランスフォーメーションが重要視されつつも後進的な状態です。2021年9月に発表された「IMD世界デジタル競争力ランキング2021」で日本は64か国中28位とほかの先進国に比べて後れを取っていることからも明らかでしょう。この要因は多くの企業がいまだにデジタルトランスフォーメーション=デジタル化・IT化と誤解していることにあります。アナログな仕組みのデジタル化や、IT技術を活用しただけではデジタルトランスフォーメーションを推進できているとはいえません。データやデジタル技術を駆使することで、ビジネスに関わるすべての事象に変革をもたらすことが企業には求められるのです。
経済産業省が2020年末に発表したDXレポート2でも次のように伝えています。

2020年以降、新型コロナウイルス感染症の影響により、遠隔・非対面・非接触があらゆる社会活動において求められている。たとえばテレワークをはじめとしたデジタル技術を駆使した社会活動が広く浸透した結果、多くの人がデジタル技術の持つ新たな価値に気付き始め、人々の価値観が大きく変化している。これらから言えることは、デジタル社会に向けた不可逆的な変化が一気に押し寄せているということである。社会全体でデジタル化が進むなかで、企業はこの不可逆的な変化に適応し、データとデジタル技術を駆使して新たな価値を産み出すことが求められている。  ― DXレポート2(経済産業省 デジタル産業の創出に向けた研究会 )

また、DX推進ガイドラインと合わせて考えると、次の3点が真にデジタルトランスフォーメーションを推進できている状態に欠かせない条件であるといえます。

  • 新たな価値創造のため、構築すべきビジネスモデルや経営ビジョンが提示できていること
  • 企業内に事業変革の体制が整っていること
  • 環境の変化に迅速な対応が可能な状態にあること

SuperVUCAの時代に突入し、不安定で不確実で複雑で曖昧な状況が続き、常に変化していくことを前提に考える必要があるなか、真の意味での「DX推進」は非常に重要な課題です。

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参考:
IMD World Competitiveness Online
DX推進ガイドライン

デジタイゼーション・デジタライゼーションとの違いと関係性

DXと一緒に語られることも多い、「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタライゼーション(Digitalization)」。これらの単語には、それぞれ次のような意味の違いがあります。

    デジタイゼーション
    ある工程で効率化のためにデジタルツールを導入するなどの局所的なデジタル化の取り組み
    デジタライゼーション
    自社および外部の環境やビジネス戦略面も含めた長期的・全域的なデジタル化の取り組み

どちらも局所的・全域的という違いはあれど「デジタル化」を意味する用語です。これらとデジタルトランスフォーメーションは混同されることが多々あります。しかしデジタルトランスフォーメーションは、デジタル化の先にある新たな価値を創造することこそが真価であるため、異なる概念であることに注意しなければなりません。

3つの言葉を順に示すと次のようになります。

  1. 「デジタイゼーション」で、各業務における既存のアナログな仕組みをデジタルツールに変換
  2. 「デジタライゼーション」で、業務全体のプロセスをデジタル化
  3. 結果として社会的な影響や価値観を生みだすことで「デジタルトランスフォーメーション」を実現

つまり「デジタイゼーション」は「デジタライゼーション」を目標としたときの手段であり、「デジタライゼーション」は「デジタルトランスフォーメーション」を目標としたときの手段といえます。
これらの言葉の意味を正確に理解・認識したうえで、デジタルトランスフォーメーションに向けた取り組みをおこなうことが、現代の企業には求められるのです。

デジタルトランスフォーメーションに関して実情把握のため、大企業の管理職1,000名へ“DX/デジタル化”に関する調査を実施したこちらのレポートで詳しく言及しています。ぜひ合わせてお読みください。

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デジタルトランスフォーメーション(DX)が必要とされている理由

ここまでデジタルトランスフォーメーションの定義とデジタル化との違いについて言及しました。ではなぜデジタルトランスフォーメーションが今重要視されているのでしょうか。3つにポイントを絞って紹介します。

消費者の行動形態の変化

1つ目は、消費者の行動形態の変化です。これは、スマートフォンの普及によりインターネットの利用が日常化したことが原因です。
消費者のオンラインでの購入機会が増え、生産者にはそこに新たな価値を見出す必要性高まってきています。またネットショップの乱立により競合の幅が大きく広がっています。競合との差別化のためにも、消費者の行動形態の変化に合わせたデジタルトランスフォーメーションは重要課題といえるでしょう。

既存モデルの変革

業務効率化のためデジタル化に取り組む企業は増えています。しかし、それが結果として市場において商品・サービスのコモディティ化を生み出していることも事実です。このコモディティ化もデジタルトランスフォーメーションが重要視される要因の1つです。
コモディティ化によってサービスの機能や品質、ブランド力などの差別価値が薄れ、消費者にとっての商品選択の基準が市場価格や量に絞られます。また製品ライフサイクルが短くなり、その分生産者の利益率は低くなります。そのため、既存ビジネスモデルの変革を行わないと自社のブランドを保ったまま生き残ることが難しくなっているのです。

少子高齢化による人手不足

日本は世界と比較しても非常に速いスピードで少子高齢化が進んでいます。総務省は、2065年には高齢化率が38.4%まで上昇すると予測した調査結果を報告しました。少子高齢化が続けば、企業では人手不足が慢性化し、現状の生産性を維持することが難しくなります。
そのため、少ない人数でも今と変わらない生産性を実現するための変革が必要になるのです。既存ビジネスモデルを変革し、デジタル化による業務効率化を図ることが企業に求められます。

このとおり、デジタルトランスフォーメーションは早急に着手すべきテーマです。DXレポートで経済産業省は「2025年の崖」というキーワードを提示し、「2025年までに日本企業がデジタル化に取り組まなければ、2025年から2030年にかけて年間最大12兆円の経済的損失を被る危険性がある」と訴えています。
さらに、2020年の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、テレワークの導入など働き方も変化してきました。手遅れになる前に、少しでも早くデジタルトランスフォーメーションに着手することが重要でしょう。

日本国内のデジタルトランスフォーメーション成功事例

いまだデジタルトランスフォーメーションに後れをとる日本ですが、すでに乗り出している企業もあります。ここでは日本国内におけるデジタルトランスフォーメーションの成功事例をいくつか紹介します。

ソニー損害保険

ソニー損害保険株式会社は、自動車保険にAIを活用してデジタルトランスフォーメーションを実現しました。同社の自動車保険においては、運転スキルや運転傾向が把握できず事故リスクの算出が困難な点が課題とされていました。
その課題に対し、AIを活用したスマホアプリ「GOOD DRIVE」を開発。運転特性連動型自動車保険の提供を実現しました。「GOOD Drive」はスマホのジャイロセンサーや加速度センサーを利用して、スマホアプリ経由で運転中のデータを収集・分析し、同社が保有する過去の事故データを組み合わせることで運転手の事故リスクを算出します。これにより、AIが安全運転であると判断した運転手に対して、保険料のキャッシュバックをおこなう保険サービスです。サービス提供者側が事故リスクを算出しやすくなっただけではなく、スマホアプリを利用することで消費者側も自身の運転を見返すことができるため、実際の事故リスクの軽減にも貢献します。

日本交通

タクシー事業を展開する日本交通株式会社は、AIを活用した配車予測システム「AI配車」の開発によりデジタルトランスフォーメーションを実現しました。同社では時季や地域によって変化するタクシーの需要が把握できず、適正に配車が行えないために稼働率が上がらないという課題を抱えていました。
そこで、AIを活用して事故や遅延などの交通状況や各種イベント情報、気象情報、地域、時間といったさまざまなデータの分析システムを開発し、タクシーの需要予測の最適化を可能にしたのです。結果として、地域ごとに適正な配車ができるようになり、稼働率の向上に成功。また、タクシー配車アプリ「GO」の提供を開始し、消費者はアプリ上で乗車位置やタクシー会社を指定するだけで配車が可能になりました。配車難易度の軽減と適正な配車対応により、顧客満足度の向上につながっています。

クボタ

グローバルに製品を展開する株式会社クボタは、海外にも多数の販売子会社を設立しています。建設機械の修理対応の多くは現地販売代理店によっておこなわれており、サポートの範囲が担当者の経験やスキルに依存してしまうという課題がありました。建設機械の稼働率低下は、ユーザーの収益減少にも影響するため、迅速かつ効率的でだれにでもわかりやすく、個人の能力に左右されない故障診断サポートが求められたのです。
そこで販売代理店のサービスエンジニア向けに3Dモデル・ARを活用した故障診断アプリ「Kubota Diagnostics」を提供。建設機械故障時のダウンタイムを軽減することで、顧客側のコスト削減に貢献しました。さらに同アプリは、今後カスタマーサポートの業務効率化やサービスエンジニアの教育・人員の確保といった面でも貢献が期待されています。

ユニメイト

株式会社ユニメイトは、レンタルユニフォーム・販売の総合ソリューションカンパニーで、「ユニフォーム」「テクノロジー」「オペレーション」といった3つの要素を融合させ、新たな価値の創出に取り組んでいます。従来、レンタルユニフォーム事業におけるサイズ申請は、クライアント企業の従業員により自己申告でおこなわれていました。この方法はヒューマンエラーによるサイズ違いが起こりやすいだけではなく、労力も含めて返品・交換に多大なコストを発生させていました。また、サイズ交換に備えて在庫を必要数以上に抱えていたことから廃棄品が発生し、環境面での課題も抱えていました。
これらの課題への対策のため同社は、AI画像認識を活用した自動採寸アプリ「AI×R Tailor(エアテイラー)」を開発し、サイズ測定対象者の背面・側面の写真と身長・年齢・体重・性別などの基本データから適したサイズがフィードバックされる仕組みを構築。これにより、クライアント側でのサイズ交換にかかる作業負荷やコスト軽減に貢献しました。またサイズ交換に伴う送料などの削減や適正な在庫管理によってサービスのコストダウン効果も期待されます。

トライグループ

トライグループは「家庭教師のトライ」をはじめとした教育事業を幅広く手がけている企業で、リモートで授業が受けられる「Try IT」という映像授業サービスの開発によりデジタルトランスフォーメーションを実現しました。
同社は、生徒の習得効率を最大限に高め、習熟や演習段階における生徒のケアにより集中したいという背景のもと、オンライン学習が普及していなかった時代から映像学習サービスに目を付け開発を進めてきました。「Try IT」の提供により、過去の生徒の学習傾向を分析し、テスト前に効率よく学習できる仕組みを構築。また、オンライン授業中にスマホをシェイクすると生徒が講師に質問できる画期的な仕組みの提供を始めるに至りました。スマホやタブレットにも対応したことで顧客の幅が広がり、結果、会員登録数は100万人を超え、特に定期テスト前には多くの生徒が「Try IT」を活用しています。オンライン授業の実現により、従来の家庭教師や塾に留まらず、オンライン授業に特化した教室を設立するなど、新たなビジネスの創出にも成功しました。

長谷工コーポレーション

長谷工コーポレーションは、マンションの設計・施工から管理・運営、リフォーム、大規模修繕、建替えまでを手がける企業です。同社では、マンション購入検討の初期段階にある潜在顧客へのアプローチ手段が、ビジネス戦略上の課題になっていました。
そこで新規顧客層の開拓のため、顧客の新築分譲マンション探しをサポートするための新サービス「マンションFit」をLINEアプリで開発。簡単な質問に回答するとおすすめ物件がレコメンドされ、そのまま営業担当者のつかない非対面のモデルルーム見学予約ができる仕組みを構築しました。LINEアプリの活用や最低限の条件選択でおすすめの物件を絞り込むことを実現したことで、顧客が抱えていた「相談先がわからない」「あげるべき条件がわからない」という悩みを解決し、顧客満足度の向上に貢献しています。

鹿児島銀行

鹿児島銀行は、鹿児島県鹿児島市に本店を置き、地域に根ざす金融機関として親しまれる地方銀行です。
同社は鹿児島銀行の口座を保有する顧客向けに独自のキャッシュレス決済サービス「Payどん」を開発。また開発にあたり、同社内でモバイルアプリの開発をおこなう体制の構築も合わせて実現しました。さらに地域貢献という企業理念のもと、サービスのローンチに合わせてキャッシュレス専用の商業施設「よかど鹿児島」をオープンし、地域のキャッシュレス決済の普及に貢献しました。ブランド力の向上だけではなく、デジタル化に適用した体制の確立によってデジタルトランスフォーメーションの模範ケースになったといえます。

スペースリー

株式会社スペースリーは、不動産・ハウスメーカーなどの分野を中心にVRサービスを提供する企業で、サービスの提供により不動産業界の課題であった内覧の手間を解消することに貢献しました。
物件を探す際、画像や図面だけでは判断できず、多くの顧客が内覧を希望しますが、実際に物件のある場所まで行くには時間も労力もかかります。このような課題を解消するため、同社では、360度VRコンテンツをだれでも簡単に制作・編集できるクラウドソフトウェア「スペースリー」を開発。「スペースリー」を利用することで、ブラウザ上から賃貸物件のパノラマ画像を表示でき、クリックひとつで部屋間を移動したり、部屋からの眺望を昼夜で切り替えて見学したりと実際に現地にいる感覚で内覧が可能になりました。これにより、すべての物件で現地まで行く必要がなくなり、顧客の物件探しに掛かる負担が軽減するだけではなく、不動産提供者側も立ち合いのコストの軽減など大幅な効率化が実現できます。

マロニエゲート

マロニエゲートは、東京の銀座で商業施設を展開する企業です。同社は、従来の会員カードを廃止してスマホアプリに切り替えたことでデジタルトランスフォーメーションの実現に成功しました。
それまでは、カード会員向けに来店促進のDM発送を適宜実施しており、毎年数千万円のコストが発生していました。またPOSシステムを店舗ごとに導入していたため、売り上げデータの管理が煩雑になってしまうことも課題にあがっていました。
そこで、顧客情報や購買に関するデータを一元管理できる仕組みを構築。顧客の来店動向や購買率、購入単価などの情報をリアルタイムに可視化することで、顧客ごとに最適なタイミングで再来店を促すことが可能になったのです。DMで行っていた来店促進をアプリのプッシュ機能を活用しておこなうことにより、発送に掛かっていたコスト問題を解消。POSシステムの課題も「ショプリエ」と呼ばれるポイント管理アプリの導入により、従来の仕組みをそのまま使って各店舗の情報を一元管理できるようになり、業務効率化を実現しました。

日本航空

日本航空株式会社は長い歴史を持つ航空会社です。同社は経営破綻を機に、50年間自社で運営していた旅客基幹システム(PSS)を刷新するための「SAKURAプロジェクト」を開始。国際ビジネスを提供する株式会社AMADEUSが提供する「アマデウス アルテア」を導入し、2018年に7年の開発期間を経て完遂させました。
「アマデウス アルテア」は世界標準ともいわれるGlobal Distribution System(GDS)※1です。「アマデウス アルテア」の導入により、旅行客は国際線と国内線の乗り継ぎや、海外の航空会社への乗り継ぎ、旅行中のホテル・タクシーなどの予約が容易になります。また、従来のシステムでは航空連合(エアラインアライアンス)への加入の際、アライアンスの標準サービスを追加するために1年以上のテスト期間を必要としていましたが、世界標準のシステムを導入したことで、モバイル搭乗券など年々加速するサービスのクラウド化に対しても迅速に対応することが可能になりました。
さらに維持にかかっていた膨大なコストの解消にも貢献するなど、レガシーシステムからの脱却により、安定したDX推進基盤の導入に成功しました。

※1:GDSは世界中の航空会社や旅行会社、タクシー会社などの予約システムとオンラインで接続することで、リアルタイムでの予約が可能になるサービスの総称

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日本をビジネスをリードする企業をお招きし、DXに不可欠な「デジタルの民主化(業務部門自らのデジタル活用)」に積極的に取り組んでおられる事例をお話しいただきます。

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進のメリット

成功事例にあげてきたように、デジタルトランスフォーメーションには大きなメリットがあります。ここでは代表的なメリットを3つ解説します。

1.業務効率化・生産性向上

ITツールを活用することで、業務の効率化や自動化が可能です。これにより、それまでかかっていた従業員の工数削減や業務負担の軽減、品質の向上など多くの効果を期待できます。
たとえば、RPAを活用し人の手で行っていた業務を自動化すれば、処理速度が上がるだけではなく、ヒューマンエラーを抑制し、品質の向上にもつながります。さらにITツールは24時間365日動かすことが可能なため、稼働時間が大幅に増え納期短縮も可能になるだけではなく、スキルなど個人に依存した生産性の変動も避けられるでしょう。
また、Web会議ツールやクラウドストレージなどのITツールの活用に加えて、電子契約システムを導入すれば、社内のペーパーレス化が進むだけでなく、スピーディーな意思決定ができるようになるため、これまでとは違った働き方の実現につながります。

2.レガシーシステムからの脱却

レガシーシステムとは属人化やブラックボックス化が起こりやすく、最新のITツールやテクノロジーとの連動が困難な、大掛かりで複雑化したシステムを指します。
先に紹介した、経済産業省が提言する「2025年の壁」が示すとおり、デジタルトランスフォーメーション実現による日本のレガシーシステムからの脱却は必須課題です。レガシーシステムを抱えたままでは、業務改善や機能追加をおこなう際、既存事業への影響範囲が大きくなり、柔軟な対応ができないばかりか、莫大な工数と費用が必要になります。さらに現状では、このシステムの維持に甚大なコストがかかっています。レガシーシステムから脱却することで、時流に即したシステムやビジネスモデルへの移行がスムーズに実施できるようになり、企業の生産性向上につながるだけではなく、現状かかっているコストの削減にもつながるのです。

3.新しいビジネスの創出

企業の生産性を上げ、市場における競争力を高めることは、新たなビジネス創出の機会を広げることにつながります。「ITなど進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をあらゆる面でより良い方向へ変化させる」という概念がデジタルトランスフォーメーションの基本にある以上、新たなサービスやプロダクトによって人々の生活をより豊かにすることこそが、最も大きなメリットであり、 デジタルトランスフォーメーションの最終的な目標といえるでしょう。
AppleのiPhoneがスマートフォンを普及させ、人々の生活を充実させたことやAmazonによるECの拡大、またメルカリが消費者同士の取引を実現したこともデジタルトランスフォーメーションによるものです。

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進のデメリット

デジタルトランスフォーメーションの実現が大きなメリットをもたらすことがわかりました。しかし一方で実現にあたり以下の点に留意しなければ、せっかく推進したデジタルトランスフォーメーションが失敗に終わってしまう可能性があります。

1.全社的な協力を得る必要がある

デジタルトランスフォーメーションの実現には、全社的なシステムや業務フローの見直し、場合によっては組織やビジネスモデルなどの根本的な見直しが必要です。そのため部門ごとではなく、全社的にデジタルトランスフォーメーションへの理解を図ることが重要になります。これには経営層が全社に対してデジタルトランスフォーメーションの実現を強く打ち出す必要があり、目標設定や予算確保も重要なミッションとなるでしょう。
また、デジタルトランスフォーメーションを実現するための組織作りや人材確保、育成体制の構築も課題の1つです。デジタルトランスフォーメーションに失敗した事例に、経営層が情報システム部門などにDX推進プロジェクトを丸投げにするというパターンがあります。ひとつの部署からの発信だけでは、全社的なデジタルトランスフォーメーションの実現は困難なため、結果として失敗する可能性が高いためです。DX推進プロジェクトを情報システム部門主導で進めること自体に問題があるわけではありません。全社的な目標であることを経営層がコミットすることが重要なのです。

2.既存システムの見直し・移行は大掛かりな作業になる

メリットにも上げたレガシーシステムからの脱却は実情、改修時の影響範囲が非常に広くなります。あらかじめ新たなシステムへの移行に際して、かなり大掛かりな作業になることを念頭に置く必要があります。さらに移行プロジェクトの対応の幅が広がったり、長期化するなかで最終的なゴールを見失わないよう、全社で共通目標を掲げ、一貫した対応ができるように備えることが成功の鍵になるでしょう。

3.結果が出るまでに時間がかかる

デジタルトランスフォーメーションが実現するためには、3年~5年程度の期間が必要になることが一般的です。DX推進を始めても期待した効果が上がらず、プロジェクトをストップしてしまう企業もあるという報告もあります。1年や2年でデジタルトランスフォーメーションを実現できる企業はないということを念頭に、目標達成に向けた施策の実施を続けることが重要です。先に紹介した日本航空の事例でもプロジェクトを完遂するまでに7年の期間を要していますが、その結果として大きな効果を獲得しています。
またITツールを導入することをゴールとしては、業務効率化は成し遂げられません。デジタルトランスフォーメーションの意味や目的を正しく捉え、長期的に取り組みましょう。

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進にむけた企業の課題

デジタルトランスフォーメーションの必要性に対する認識は高まっているものの、日本は推進できていない状態であるとお伝えしてきました。これは具体的な方向性を模索中という企業が多いためでもあります。明確なビジョンがないまま、ITツールを利用してなにかを実現しようと、曖昧な状態のままPoCを繰り返しているケースが多数あると、経済産業省は苦言を呈しています。一方で、成功事例にある企業のように、いち早くデジタルトランスフォーメーションを推進している企業では「必ずと言っていいほど、経営層のコミットがある」と言及されているのです。迅速な変革が求められている状況ではありますが、最初の課題は経営層を巻き込み経営戦略を固めることにあります。

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進を成功に導くポイント

ここまでのまとめとして、デジタルトランスフォーメーションを推進するために必要なポイントを3つ紹介します。

◆トップが率先してコミットすること

デジタルトランスフォーメーションは業務の一部分だけを変えるものではなく、企業文化、風土など企業全体を大きく変換していくものです。企業のトップが率先してコミットしていきましょう。

◆レガシーシステムの見直し

サポートが終了したシステム、すでにカスタマイズを行える社員がいなくなってしまったシステムは思い切って見直すことが大切です。保持しているだけでコストがかかるうえ、情報漏洩リスクも生じます。レガシーシステムはできるだけ早く見直しを行わなければならなりません。

◆DX推進人材の確保

IT人材、特にデジタルトランスフォーメーションに必要な先端デジタル技術を扱えるIT人材は非常に不足しているのが実情です。推進のためにはデジタルトランスフォーメーションに精通した人材の雇用もしくは育成が欠かせません。先端デジタル技術を持つ他社との協創も視野に入れつつ、トップが先導となってDX推進人材の確保に取り組む必要があります。

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進に必要な組織の条件

組織内には、デジタルトランスフォーメーションを推進したいと思う人とデジタルトランスフォーメーションの実現に必要な“ デジタル・リテラシー ”を持つ人がバラバラに存在してしまいます。また企業のトップは社会に新しい価値を提供したいと思い、現場部門では特定領域でのビジネスチャンスを肌で感じています。情報システム部門ではデジタルを活用したテクノロジーの将来性を感じてPoCなど進めつつも、デジタルを活用して変革するべき自社のビジネス領域に関する観点が、現場部門と比較すると不足しがちです。 デジタルトランスフォーメーションを推進したいと思っても、デジタル・リテラシーがなければ実現方法にたどり着くことができません。一方でデジタル・リテラシーがあっても、特定の部門だけでは変革すべき領域を見誤り、有効活用しきれない状況が発生します。
デジタルトランスフォーメーションに立ち向かうためには、この“ 縦割り組織の壁 ”を乗り越えなくてはいけません。変革マインドとデジタル・リテラシーを兼ね備えている社員がたくさんいて、部門を越えた横連携ができる状態が理想的です。現場部門のちょっとした業務にも、情報システム部門が支援する状態であれば、縦割りを越えた水平的な連携が自然と発生していくことでしょう。

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進を支える「デジタルの民主化」

上記のような理想的な組織を実現するために、ドリーム・アーツは「デジタルの民主化」を提唱しています。

デジタルの民主化

「デジタルの民主化」とは、最も業務に精通している現場部門(非IT部門)の人材が自らITを活用するという考え方です。「自分もデジタルで業務を変革できる」と思うメンバーが1人・2人と増え、全社に広がっていけば、変革を担える人材・活気が育ち、DXを支えるカルチャーになっていきます。
「デジタルの民主化」の取り組みを通して、現場の横断的な業務を、現場部門自らがデジタル化することにより、変革マインドの共有や、デジタル・リテラシーの普及がされます。DXに立ち向かうために不可欠な水平的に意識が共有された組織の実現ができます。

DX CAMPにて「『デジタルの民主化』DXに立ち向かう組織の絶対条件」について講演しました。イベントレポートや実際の講演動画はこちらからご覧いただけます。

「デジタルの民主化」DXに立ち向かう組織の絶対条件

まとめ

いかがでしたか?
今回は、バズワードとなっているデジタルトランスフォーメーションについて紹介しました。コロナウイルス感染症の拡大とともにさらに注目を集め、推進する企業は増えてきています。しかし、DXレポートなどが示す数字からしても日本での成功事例が少ないことを事実としてとらえる必要があります。デジタルトランスフォーメーションは言語として普及しつつも、実際の対応は非常に難易度が高い課題であることから浸透しきれずにいます。この状態を解消するためには、全社を巻き込むだけではなく、ときには他社と協創することも求められるでしょう。
今回ご紹介した内容が、皆さまのデジタルトランスフォーメーション推進における見直しや、協創へ踏み出すきっかけになれば幸いです。

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この記事の執筆者:斉藤(マーケティング本部)

通信サービス販売・コンタクトセンター運営などの経験を経て、2021年ドリーム・アーツに中途入社。マーケティング本部の一員として日々勉強中です。
たくさんの経験をしてきたことを活かし、誰が読んでも楽しめるコンテンツを目指して、今後もたくさんの情報をお届けします!