- 約780店舗の関連する膨大な情報を一元管理
- 店舗の開発から管理といった一連の業務の流れをデジタル化
- ノーコード開発プラットフォームの活用で、継続的なアプリ開発・業務改善が可能に
- 経営の意思決定やサービス品質向上に貢献する質の高いデータ基盤として活用を目指す
「タリーズコーヒー」は、1992年に米国シアトルで誕生したコーヒーショップチェーンである。日本では1997年、銀座に第1号店をオープンし〝地域社会に根ざしたコミュニティーカフェ″を理念に店舗数を拡大。現在では全国780店舗を運営している。さらに近年は主力としていたコーヒー事業に加え、新たなブランドを展開。紅茶メニューを豊富に揃えた“タリーズコーヒー &TEA”や駅ナカのようなコンパクトな場所に出店する“TULLY’S COFFEE -SELECT-”など、顧客の嗜好やライフスタイルの多様化に合わせた事業拡大を進めている。
多くの店舗を展開する同社では、「情報の散在」の課題解決を目的に「SmartDB」による情報の集約と共有に取り組んでいる。これにより業務効率化だけでなく、蓄積されたデータをビジネス上の意思決定や店舗の価値向上にも活かせるような環境構築を目指す。
店舗の開発から管理に必要な情報が散在、進む非効率化と属人化
消費者に商品やサービスを提供する「店舗」は、外食チェーンの事業展開において真に要となる存在である。店舗の開発から管理の一連の業務には、店舗設計、物流調整、契約、研修など実際に運営をおこなうに至るまで非常に多くの工程があり、また運営開始後も多岐に渡る営業情報の管理が必要である。それぞれの工程で進捗管理や社内申請が必要であり、作成される文書の数は膨大だ。
同社では各工程の情報をExcelにまとめ、担当者が独自に管理していた。Excelの受け渡しに伴い、別の担当者がファイルをコピーして利用するケースもあり、情報が各所に散在していたという。
秘書本部 本部長
遊佐 友博 氏
「なにかのデータが欲しいときには、そのデータを“だれが作っているのか”を把握するところから始めなければいけませんでした。作成者がわかっても、その人の持つデータが最新かどうかについては、別途確認が必要です。また、店舗の基本情報とさまざまな契約関係の情報は別で管理されていたので、担当者は店舗の契約状況を把握するために、物件や設備、通信回線など各契約の担当者に個別にヒアリングする必要がありました。この煩雑な状況を改善するには、店舗に関わる情報を一元化し、正しく運用できるようにする必要があると考えていました」(遊佐氏)
そう話すのは、タリーズコーヒージャパン秘書本部 本部長を務める遊佐友博氏だ。遊佐氏はこれまで、営業本部において店舗関連の管理業務全般やトレーニングなどに長く携わってきた。
そして、それぞれの立場で店舗管理に携わる多くの人が、同様の課題感を持っていたようだ。管理本部 システム部で部長を務める橋本聡氏もその一人である。
管理本部 システム部 部長
橋本 聡 氏
「管理本部では、店舗に導入しているPOSレジなどのシステム機器の運用管理を担当しています。特定の店舗に入っている機器について詳細な情報や運用状況などを知りたい場合に、同じ部門のなかでも、それを知っているのがだれなのかがわからないというケースは少なくありませんでした。おそらく、いろいろな現場でこうした非効率な状況をなんとかしたほうがいいと感じていたのではないでしょうか」(橋本氏)
リリース後の継続的な改善を見据えて「SmartDB」を採用
同社では、情報環境の改善に向けた新たなシステムの検討を2015年ごろから続けてきた。求めていたのは、店舗の基本情報を中心に、開発から管理まであらゆる工程で必要となる情報を一元管理、参照できるデータベースだった。遊佐氏は、このデータベースを「店舗カルテ」と表現する。
この店舗カルテを構築するためのプラットフォームに「SmartDB」が選ばれたのは「“1回作って終わり”ではないところが大きかった」という。
「店舗カルテで実現したい複雑な要件に対応できるツールが存在しなかったので、自分たちで作るのが前提になると考えていました。開発の方法についてはいろいろ検討したのですが、店舗カルテを一度開発して終わりではなく、店舗の増加や営業形態の多様化に対応して何度も改修を重ねる必要があると見込まれました。そこで、社内で迅速な修正や改善ができることを条件に候補を絞り込んでいきました」(橋本氏)
同社では「ノーコード開発」が可能な製品をいくつか比較検討。そのなかで、複雑な業務要件をノーコードで開発でき、同時に次の要件を満たすツールとして「SmartDB」を採用した。
【要件】
- 時代の流れに沿って進化するクラウドサービスであること
- 約300以上ある管理項目を問題なく扱えること
- 店舗カルテを最新に保つために更新時の承認フローを設定可能であること
店舗カルテに設備や契約状況などExcel250シート以上ある関連情報を集約
「SmartDB」による店舗カルテの開発プロジェクトは、2021年に本格的にスタートした。実際の開発作業は、店舗カルテ上で管理すべき情報が現場の各所でどのように管理され、使われているかを把握するところから開始。エンドユーザーとなる営業部門のメンバーなども交えたプロジェクトチームで情報を収集し、整理をおこなった。この段階で集まったデータはExcelで250シート以上、大項目は50以上に及んだという。
集めたデータはそれぞれで内容を精査し、店舗カルテ上で標準項目として扱うものを整理していった。整理がすんだデータは順次、橋本氏が「SmartDB」上に表現し、ユーザーに見せながら調整をおこなうという作業を繰り返して開発を進めた。
<店舗カルテアプリの実際の画面イメージ>
情報整理に時間をかけながらも、店舗カルテの開発作業自体はドリーム・アーツのサポートを受けながら順調に進んだ。一方で橋本氏は、店舗カルテに複雑な条件分岐やデータ間の関連付けなどを実装したいと考えていた。「店舗議事録」は、そうした機能の一例だ。
「SmartDBでは、簡単にアプリを作れますが、より個別性の高い業務要件を実現するためにちょっとしたコツが必要になることがあります。そうした部分については、ドリーム・アーツから提供してもらったプロトタイプを参考にしながら作成を進めました。そして、どうしても店舗カルテ上に統合したいと考えていた機能のひとつが“店舗議事録”です。これは、ある店舗に関連しておこなった商談や打ち合わせの内容を店舗に紐付けて記録に残しておくものですが、実現のためにはフランチャイズや直営など店舗の運営形態のパターンに応じて、情報の紐づけ方を工夫する必要がありました。設定がかなり複雑になったのですが、サポートの方にアイデアをもらいながら実装することができました」(橋本氏)
同社では、プロジェクト開始から約1年後の2022年5月、「SmartDB」による店舗カルテの本格運用を開始した。
店舗カルテの周辺アプリが付加価値を向上、利用率が高まり社内の意識にも変化が
<SmartDB による店舗カルテを起点とした周辺業務との関連イメージ>
店舗カルテの本稼働がスタートして約2年が経過したが、その間に同社では店舗カルテと連動する「新店スケジュール」など別のアプリもリリースした。これは出店計画の段階で、物件に関する契約やフランチャイズオーナーとの交渉、店舗企画や工事などに関わる情報を管理するものだ。これらの情報は、社内の担当者だけでなく社外のステークホルダーとも共有されている。
「開店に向けて必要な情報を関係者が入力していき、最終的にオープンするとその情報が店舗カルテにセットされるという仕組みです。契約状況や施工のスケジュールなどを、関係者が一目で把握できる便利なものになっています」(橋本氏)
このアプリがリリースされてから、店舗カルテそのものの利用率も大きく向上した。また「SmartDB」で作成したアプリが、パソコンだけでなくモバイル端末からアクセスできる点もユーザーの利用機会を増加させている。
同社では現在、旧来のExcelとメールをベースとした情報管理から、店舗カルテを中心とした一元的な情報管理と業務フローへの完全移行を目指している。実際に店舗カルテを利用しているユーザーからの前向きなフィードバックも増えているという。
「“店舗カルテにこういう機能は入れられないの?”といった問い合わせを受けることが、部署を問わず増えています。このような声が聞こえてくるということは、着実に社内での活用が進んでいる証拠です。これまで、本質的ではないのに時間がかかっていた情報収集などの作業が“店舗カルテ”によって大幅に効率化され、多くの社員がSmartDBに対して“使えそうなツール”という印象を持ち始めているのではないでしょうか」(遊佐氏)
基幹データとの連携も視野に店舗カルテの「戦力化」を推進
社内で店舗カルテの活用が本格化したことで、そこには店舗に関する質の高いデータが蓄積されるようになった。遊佐氏はこうしたデータを「戦力化」していくことを今後のビジョンに掲げている。「戦力化」とは、業務の効率化だけでなく、経営や現場のより迅速な意思決定やアクションに貢献するべくデータを育てていくことを意味する。
「たとえば、店舗の担当者が改装をおこないたいと思ったときには、必要な情報をひとつずつ集め、契約情報を参照しながら予算とスケジュールを立てて稟議申請するというのが以前の流れでした。今は、店舗カルテに情報の大半が集約されており、稟議のワークフローも統合されています。将来的に店舗の売上情報などもマスタから参照できるようになれば、より短い時間で質の高い情報を根拠に、企画から意思決定までを一気通貫でおこなえる環境になると考えています。いわばSmartDBを営業管理ツールのように使えるのではないでしょうか」(遊佐氏)
売上や経費を管理する会計業務など、いわゆる「基幹業務」のデータが店舗カルテを含む関連情報と連携することで、システム全体が生みだす価値はさらに高められるだろう。こうした基幹システムの周辺業務を「MCSA」(Mission Critical System Aid※)と呼ぶ。デジタルトランスフォーメーション(DX)実現に向けて経営の意思決定に必要な情報をすばやく活用できる状態するためには重要な領域である。
「永遠に完成することはない」― 今なお進化し続ける店舗カルテ
現在稼働している店舗カルテは、細かい修正対応も含めて2週間に1度ほどの頻度で改善がおこなわれているという。橋本氏は「外注で作ってもらったシステムであれば、これほど頻繁な改修はできない」と評価する。
「アプリをユーザーに使い続けてもらい、価値を提供し続けるためには、アプリ側も常にブラッシュアップし続ける必要があります。その意味では“店舗カルテ”も永遠に完成することはありません。SmartDBのように自分たちの手でアプリを容易に改修できる仕組みが不可欠だと感じています」(橋本氏)
今後も継続的に機能拡張や改善を続けていくうえでは、社内における「SmartDB」開発者の拡充も新たな課題となるだろう。
「まだ構想の段階ですが、管理本部に“こういう機能は入れられないの?”というフィードバックを寄せてくれたところに “実装するなら一緒にやりましょう”と声を掛けることで、開発できる人員を増やしていけないかと考えています。近年、DXが重要だと言われていますが、おそらく社員のひとりひとりが実際にそうした意識を持って手を動かせるようにならないと、本当の意味でのDXは実現できないと思います。そうした文化を社内につくっていくためにもSmartDBは適したツールだと感じています」(橋本氏)
作りあげた店舗カルテを今なお改善しながら、集約されるデータをビジネスに貢献する「戦力」へと育てようとしているタリーズコーヒージャパン。遊佐氏は、その基盤である「SmartDB」の活用方法も、今後さらに洗練させていきたいと話す。
「SmartDBを採用してみて、製品としての完成度の高さ、特にスピード感のある改修を実現する開発力と柔軟性は高く評価しています。ドリーム・アーツの支援を受けながら、ようやく当初のイメージに近づいたと考えていますが、まだ手探りの部分も多く、常に“本当にこの使い方が正解なのか”と疑問を抱えながら運用しています。引き続き、外食産業だけでなく、異業種での事例なども参考にしながらより良いSmartDBの活用方法を模索していきたいですね。ドリーム・アーツにも、これまでの知見をもとに“タリーズコーヒーなら、こういう仕組みを作ると効果が高いのではないか”といった提案をしてもらえると、より嬉しいと思っています」(遊佐氏)