- さらなる事業成長を視野にマスタ管理業務の見直し、「店舗管理台帳」の集約を実現
- 情報システム部門に依存しない、現場によるデジタル化推進
松屋グループは、牛めし・カレー・定食店の「松屋」、とんかつ専門店「松のや」など、全国に1,000店舗以上を展開する飲食チェーンである。1968年に牛めし・焼肉定食店「松屋」を開業以降、業態を拡大しながら店舗数を増やし、2012年に1,000店舗を突破。現在(2024年)は国内外で1,240店舗を構え、さらなる成長を続けている。松屋フーズホールディングス(以下、松屋フーズHD)は、グループ全体の業務効率化、事業運営力とブランド力の向上など経営管理を担う。同社では、多店舗展開に重要な「マスタ管理」業務の改善と効率化を図るデジタルツールとして、ドリーム・アーツの業務デジタル化クラウド「SmartDB」を採用し、活用を進めている。
Excelファイル乱立による情報分断が事業成長の“足かせ”に
「飲食業として、これまで券売機の導入など店舗業務には積極的な投資をおこない、デジタル化による業務効率の向上を図ってきました。一方で、本部での業務改善には十分に手が回らず、Excelを中心とする情報管理やメールでの共有といったスタイルが長く続いてきました」
そう話すのは、松屋フーズHD、経営企画部 経営企画グループのグループマネージャーである齊藤弘幸氏だ。齊藤氏はアルバイトで松屋フーズに入社。以来、20年以上にわたって店舗や本部で、グループのめまぐるしい事業拡大と変遷に関わりながら、本部での業務改善やシステム導入にも数多く携わってきた。
「店舗数が1,000店を越え、業態も増えるなかで、さらなる成長戦略をどう実現していくかを考えることと並行して、法対応なども進める必要があります。2021年、電子帳簿保存法への対応を機に、改めてデジタルトランスフォーメーション(DX)を視野に入れた、業務プロセスの見直しを図ろうと動き出しました」(齊藤氏)
経営企画部 経営企画グループ
グループマネージャー
齊藤 弘幸氏
外食チェーンにおいて消費者に商品を提供する「店舗」の開発や運営とそれら店舗情報の管理は、事業拡大の基礎となる重要な業務のひとつだ。多種類の業態の管理に加え、複数業態を組み合わせた「複合型店舗」の考慮や、券売機やタブレット注文等の異なる「受注形態」など、店舗情報に紐づけて管理すべき項目は店舗数に伴って掛け算方式で増加し膨大な数になっている。店舗の部門マスタが発生する前段階の「店舗開発業務」では、出店計画や各種見積・契約など各工程で大量の情報がやり取りされ、1店舗の開発にあたり20~30件ほどの関連ファイルが存在する。 同社ではワークフローツールで稟議を回付、計画や契約の承認をおこなっていた。しかし、その前の段階で収集される各種関連情報は、別途ExcelやPDFなど電子ファイルでの管理やメール添付による共有がおこなわれていたために、手作業での取りまとめや確認が必要に。部分的なデジタル化は、結果として担当者の作業負荷を高め、今後の店舗数拡大に向けて重い“足かせ”となることが懸念されていた。
「情報管理とワークフローをまとめたシステムを作ることができれば、特に店舗開発・店舗管理の領域で大きな業務効率の向上が見込めると考えました」(齊藤氏)
齊藤氏は、導入済みのツールに捉われずに、ほかのワークフローツールやWebデータベース開発ツールも視野に入れて情報を収集。同社のニーズに対応できるものがあるかどうか比較検討をおこなった。そうしたなかで参加したドリーム・アーツ主催のセミナーで「SmartDB」の存在を知る。
「ドリーム・アーツ担当者の話や導入企業の活用法を聞き、SmartDBであれば、われわれが実現したいと考えている複雑なワークフローと情報管理の仕組みを比較的簡単に実現できそうだと思いました。また、情報システムの担当部門は、より変化の激しい顧客接点に注力する必要があり、決済ツールなどへの対応にリソースを割かざるを得ない状況でした。彼らの手を極力借りずに、業務を理解している現場社員が自分たちの手で作成・改善していけるツールであると感じたことも導入決定の大きな理由でした」(齊藤氏)
複数のシステムに分散した店舗情報を「SmartDB」に集約
「SmartDB」導入後、齊藤氏が不可欠だと感じたのが、「台帳」の標準化であったという。業務のシステム化において、「組織」「店舗」「商品」などのマスタデータを管理し、複数のシステムから参照できるようにしておくことが理想的だ。しかし松屋フーズの場合、長年の事業拡大や組織変更などを経て、各所の基幹システムや業務システムごとにマスタとコードが乱立する状態になっていた。
今後、店舗開発を含む多様な業務を効率化し、なおかつ会計や人事データを管理する基幹システムとも効果的に連携させていくためには、各所に分散しているマスタを標準化し、管理する仕組みを確立しておく必要がある。そこでまず、経営企画部が主管している「部門コード」の発行業務デジタル化の足がかりとして「店舗管理台帳」を「SmartDB」で構築することに決定。新店への店舗コード付番や情報の更新などを「SmartDB」ですべておこない、RPAツールと組み合わせて既存の社内ポータルなどにファイルを連携するまで自動化する仕組みを構築した。手作業による情報の転記ミスがなくなり、翌日には最新の店舗情報が参照できるようになるという。
<「SmartDB」で目指す「店舗情報管理」の実現イメージ>
「SmartDB」で一元管理した店舗情報はさまざまな業務で活用が始まっている。
「たとえば、営業許可申請を保健所に提出する業務などで活用を進めています。対象となる店舗の情報を紐づけたうえで更新時期や管轄保健所などの必要な情報を記載、提出する帳票の形式で電子ファイルに出力するところまでをSmartDBで構築する予定です。保健所との電子契約行為はSmartDBと外部ツールの連携による実現に向けて検討を進めています。このように、これまでExcelなどのファイルとメールでやり取りしていた業務を効率化、集約管理できるようにしています」(齊藤氏)
<電子契約システムとの連携イメージ:営業許可申請>
「SmartDB」による開発は、現在、齊藤氏を含む数人のメンバーによって進められている。経営企画部 経営企画グループ チーフスタッフの涌嶋佳代氏も開発メンバーの一人である。
涌嶋氏は日頃からExcelマクロの作成などによる業務効率化を推進していたが、部門を超えた横断的な仕組みを構築する必要性を強く感じ「SmartDB」によるアプリケーション構築や新規メンバーへのトレーニングにも関わるようになった。
経営企画部 経営企画グループ
チーフスタッフ
涌嶋 佳代 氏
「実際に使ってみた感想ですが、Excelの関数を使うことができれば、SmartDBでプロセスをシステム化するのは非常に簡単だと思います。私の場合、導入トレーニングを受けた後は、小規模なアプリを作りながら試してみるといったことを繰り返して使い方を覚えていきました」(涌嶋氏)
小さな成功例の積み重ねが「デジタルの民主化」実現のきっかけに
現在は、主に齊藤氏と涌嶋氏の2名が中心となり「SmartDB」上で「店舗管理システム」の実現を目指している。「店舗管理システム」は、作成した「店舗管理台帳」を軸に出店申請やその後の基幹システムへの連携、データ活用も視野に入れた取り組みだ。その周辺アプリの開発にあわせてITの専門的な知識がなくても現場業務をデジタル化できる人材の育成に取り組んでいる。
「DXを実現していくにあたって、社員全体のITリテラシー向上が必要です。全社的な取り組みとしてタブレット導入や基幹システムへのCSV取込、API連携などがあり、そちらは情報システム担当部門が主導で進めています。本部業務のデジタル化にあたっては、できるだけ現場の業務を知っている各部門の社員が自分たちの手でデジタル化していくべきだと思っています。SmartDBを活用した小さな成功例を積み上げていき、社内にその意識を根付かせたいと考えています」(齊藤氏)
ここまでにあげたもの以外にも、松屋フーズHD内では「SmartDB」で作成したアプリがいくつか活用されている。
「券売機等に表示されるメニュー画像の管理アプリ」は、社内メンバーの「SmartDB」研修の中で作成された。
「店舗の券売機に表示されるメニュー画像は、デジタルデザイン部門と販売企画部門、商品開発部門との間で情報共有しながら作成・更新をします。新規メニューが追加されたり、盛り付け方が変わったりと頻繁に更新が発生し、さらに地域や業態で異なるメニューもあるためデータ量は膨大です。従来はファイルサーバ上で管理、メールで共有がおこなわれていたため業務が煩雑でした」(涌嶋氏)
SmartDB化したことで、バージョン管理や検索の機能が付加され業務効率が向上。なにが最新の画像なのかが一目瞭然となり、手作業によるミスも少なくなった。デザイナーや営業担当者のストレスも軽減されたという。
同社では「SmartDB」の活用範囲を広げていくにあたり、担当者自らが業務課題を見つけ出し、それを実際にSmartDB化するまでを体験する研修を実施した。「実際に自分たちで手を動かし、SmartDBで業務を変える経験をした社員が増えていくことで、情報システム担当部門だけに依存しない自主的な業務デジタル化の意識を社内に根付かせることにつながります。こうした取り組みは、今後も継続していきたいです」と齊藤氏は話す。
大きな“夢”の実現に全力を注ぐために「SmartDB」を活用
松屋フーズHDにおける、「SmartDB」を活用した本部業務改革の取り組みは、まだ緒についたばかりだという。まずは、シンプルな業務を効率化する業務アプリの作成と、「台帳」を集約する仕組みづくりを目指す。これらを段階的に積み上げながら、現場主導による業務デジタル化の意識を社内へ定着させることに取り組む。さらにその先には、「SmartDB」で集約された「台帳」を軸に基幹データ、業務データ、ワークフローが高度に連携する「店舗管理システム」のような仕組みの実現がビジョンとして描かれている。
「SmartDBによる店舗管理台帳の作成を手がけたことで、汎用的な台帳管理システムの作り方が見えてきたと感じています。“店舗”の次は、“人事” “商品”さらにそれ以外の“固定資産”“設備”などの情報を集約管理できるアプリ開発にも、順次取り組んでいきたいですね。こうした「台帳」が整っていくことで、不要な作業の削減やシステム間の連携は、よりスマートに実現できるようになっていくはずです。拡張性が非常に高い仕組みになると思います」(涌嶋氏)
経理や人事、資産管理のような「基幹業務」に関わるデータが、「台帳」を軸に各種アプリや他システムと連携できるようになることで、システム全体が生みだす価値はさらに高めることができる。こうした基幹システムの周辺業務を「MCSA」(Mission Critical System Aid)と呼ぶ。デジタルトランスフォーメーション(DX)実現に向けて経営の意思決定に必要な情報をすばやく活用できる状態にするためには重要な領域である。
「経営企画部の役割は、会社の将来的な事業計画を作っていくことです。いわば、経営方針に照らしながら“会社をこういう姿にしていきたい”という“夢”を形にする仕事といえます。そのミッションを十分に果たそうとすれば、本来やらなくてもよいはずの作業に時間をかけている余裕はありません。大きな目標を実現するための手段として“業務効率化”や“システム化”を位置づけています。“こういう仕組みがあれば、会社としてもっと面白いことができるのではないか”という思いが、経営企画部の自分が業務デジタル化やDXに臨む最大の理由です。そのために、SmartDBを存分に活用していきたいと思っています」(齊藤氏)