契約書を電子化するメリット・デメリットや導入の注意点を解説

昨今、「ペーパーレス」や「脱ハンコ」の動きから、多くの企業が電子契約の導入を検討しています。本記事では、契約書を電子化するメリット・デメリットから、電子契約導入の際の注意点などについて解説します。

契約書の電子化とは?

「契約書の電子化」とは、紙の契約書に代わり、電子データに「電子署名や電子サイン、電子印鑑」を入力することによって契約を締結(電子契約)することを意味します。電子署名によって本人が契約書にサインしたことを確認し、「タイムスタンプ」によってその契約書が有効であること、改ざんされていないことを証明します。
電子契約書の法的効力は電子署名によって保証され、紙の契約書と同等の効力があるとされています(電子署名法第3条より)。紙の契約書では記名押印により原本とそれ以外を区別していますが、電子契約の場合は、電子署名を使うことでそれを区別することができます。
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また、契約書を電子化することにより、契約締結時間の短縮やコスト削減などさまざまなメリットを得ることができます。日本の民法では、原則として、契約内容について当事者間の意思の合致があれば契約は成立します。その契約があったことや内容を証明するために契約書は作成されます。このように契約書の作成は、契約締結の必須要件ではないため、電子契約で締結・保管しても契約が無効とされることはありません。
コロナ禍における急速なテレワークの普及や、国が打ち出している「ペーパーレス」や「脱ハンコ」などのデジタル化推進施策、働き方改革の影響もあり、今後は本格的に電子契約を導入する企業が増加すると考えられます。
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電子契約書と紙の契約書の違いとは

電子契約書と紙の契約書には、下記のような違いがあります。

紙の契約書 電子契約書
送付手段 持参または郵送 インターネット経由
契約締結までの流れ 郵送された文書に記名押印して返送 送られてきた契約書データを
パソコン上で確認して署名
保管方法 倉庫やキャビネットなどで
紙の書類を物理的に保管
原本保管の必要がなく、電子データ
(PDFファイルなど)で契約書を管理
法的効力 署名または押印 電子署名
日時の証明 日付を記入 法的に認証された
タイムスタンプを取得
書類の検索 保管先の倉庫などからひとつずつ
探す必要があるため時間がかかる
クラウド上にデータとして
保管されているため検索が容易
テレワーク対応 会社や上司のハンコが必要な場合
出社しなければならないため不可能
場所と時間を選ばずに契約を
締結させることができるため可能

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電子化できる契約書類の例

電子署名法が施行された2001年以降、電子文書が紙書面で契約されたものと同等に通用する規定が順次整備され、近年では、一部の法的規制を除いてほとんどの契約類型において電子化が認められています。というのも、多くの契約は口頭でも成立し、ほとんどの契約類型において契約書類は必須ではありません。
口頭で契約した場合は、契約した事実や内容の証明が困難な場合があります。訴訟などで使える証拠として契約書は機能します。このように、通常の契約では契約書は証拠として存在していればいいので、紙でなく電子データでも問題がありません。
「契約書」という名前の文面ではなくとも、たとえば、「注文書・注文請書」のやりとりも電子化が可能です。その他にも請求書や見積書をはじめとした、さまざまな帳票類も電子化することができます。

電子化できる契約書類の一例

取引基本契約書 / 業務委託契約書 / 秘密保持契約書 / 代理店契約書 / 下請法第3条書面 / 業務請負契約書 / 注文書・注文請書 / 工事請負契約書 / 委任契約書・準委任契約書 / 雇用契約書 / 保証契約書


電子化できない契約書類の例

紙の書類での交付が法律で義務付けられているため電子化できない契約書類もあります。
「書面」という文言が法令上あり、紙での作成が指定されているかどうかが電子化可否の判断基準になります
現在、書面を要求する法令の規定がデジタル化促進の阻害要因になっていることが指摘され、さまざまな法令改訂が進んでいます。たとえば、2001年4月にIT書面一括法(書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律)が施行されたことにより、民間同士の書面の交付や手続きを義務化している法令を一括して改正し、電子取引が認められる契約が増えました。ただし、IT書面一括法でも類型的に電子化が適切でないものについては、電子化の対象外とされています。

電子化できない契約書類の一例

  • 定期借地契約書・定期借家契約書(借地借家法22条、38条1項)
  • 宅建業者の媒介契約書(宅地建物取引業法34条21項)
  • 不動産売買における重要事項証明書(宅地建物取引業法35条※契約ではない)
  • マンション管理等の委託契約書(マンション管理適正化法73条)


電子化が適切でない理由としては下記の分類があります。

  • 公正証書を要求しているもの(公正証書は公証人の面前で作成されなければならない)
  • 取引が対面で行われる等、電子での取引が行われないもの(質屋営業法等)
  • 国際条約に基づくもの(国際海上物品運送法等)
  • 契約を巡るトラブルが多発している等、書面での署名や押印の代替が困難なもの(貸金業規制法、商品取引所法等)

参考:電子化できる契約書類、できない契約書類 | リーテックス

電子契約書の契約締結までの流れ

電子契約に必要な要素は「電子署名」「電子証明書」「タイムスタンプ」の3つです。これらを適切に組み合わせることにより、本人である証明や改ざんされていないことの証明、存在証明をすることができます。
電子契約をおこなう際は、取引先と電子的な契約書データをやり取りし、内容に合意します。
紙の契約書では押印・署名でしたが、電子契約の場合、電子署名をおこなうことで契約が締結されます。第三者である認証局が発行する電子証明書により、電子署名は本人のものであると証明されます。電子文書の確定時刻を証明するための技術的な仕組みの「タイムスタンプ」がこれにあたります。
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契約書の電子化のメリット

紙の契約から電子契約に切り替えた場合、「コスト・時間削減」「業務の効率化」「ガバナンス強化」など多くのメリットがあります。テレワークにも対応できることも大きなメリットです。以下、それぞれのメリットについて詳しく説明します。

コスト・時間削減

紙の契約書は課税対象のため、印紙税を納入し印紙を貼付する必要がありましたが、電子契約は課税対象ではないため印紙税にかかる費用も不要となります。印紙代のほかにも、契約書の紙代・印刷代、郵送の際の切手代などさまざまなコストが発生しますが、電子契約にすることにより、その分コスト削減ができます。このようなコスト1つ1つは大きな金額ではないですが、契約書は企業において数多く発生するため、それが重なると企業にとっては大きな出費になります。
また、契約締結までの時間短縮といった面でもメリットがあります。紙の契約書の場合、契約締結まで郵送・押印作業が発生します。契約の種類によっては契約先へ訪問する必要がある場合もあり時間がかかります。電子契約ではこれらが不要となるため、締結までの時間を短縮できます。ビジネスではスピードが重視されるため、契約締結までのリードタイム短縮は企業にとって非常に大きなメリットになります。

業務の効率化

電子契約に切り替えることで、事務作業の手間や書類を探す時間などの削減ができ、業務効率化にもつながります。紙の契約書では、書類の準備からはじまり、契約書の郵送・投函・集荷依頼などの煩雑な事務作業が必要となります。一方、電子契約においては契約書作成から締結まですべてオンライン上で完了するため、契約に関連する事務作業の手間を省略できます。出社せずとも対応できるようになるため、テレワークが増えている昨今、導入を検討する企業が増加しています。ハンコを押してもらうためだけに出社するのは業務効率の観点でも無駄が多いので、その面でも業務効率化につながります。
また、既存の紙文書についても、OCRなどの技術を活用することで電子保管が可能になり、探す手間の削減・ほか業務への対応時間創出を実現できます。

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管理体制・ガバナンス強化

企業活動をおこなうにあたり契約業務は欠かせません。電子契約にすることで、データの一元管理が可能になったり、バックアップやアクセス権限を設けるなどのセキュリティ強化が簡単になったりと、より厳重な管理体制を構築することができます。また、過去の契約書をデータ上で一元管理することで契約書の紛失を防げます。基本的にはどのシステムも、タイトルや日付から保管された契約書内から探すことが可能です。契約期限の管理も簡単にできるため、更新期限が近づいたらアラート通知することで、契約書の紛失や更新漏れといったトラブルを防げます。
なお、電子契約書を保管するシステムは常に高度なセキュリティで契約書を保護しているため、安心して契約書を管理することができます。

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契約書の電子化のデメリット

ここまでご紹介してきたとおり、さまざまな面で利点を備える電子契約ですが、電子契約にはデメリットや注意点も存在します。ここでは、電子契約を導入するにあたり起こり得るデメリットを解説します。

契約締結する取引先の協力が必要

契約書を締結するには取引先の存在は欠かせません。契約の流れに変更が伴うため、一方的に電子契約に切り替えることはできず、取引先にも事前に同意を得る必要があります。電子契約を導入する企業が増えてきたとはいえ、会社の方針などで導入していない企業や紙運用からの転換が難しい取引先がいれば拒否反応を示すこともあるかもしれません。
契約締結は双方の合意があってのことなので、理解を得られない限り、電子契約化を進めることはできません。取引先に対しても電子契約のメリットや法的証拠力などを簡潔に説明し、協力依頼を進めましょう。協力依頼を進めるときには、説明用の資料を用意するほか、取引先と接点が多い営業担当などが問い合わせに対応できるよう、電子契約サービスの提供元への問い合わせ方法やマニュアルなどの参考資料、QAをまとめておくなど準備をしておくとよいでしょう。取引先がシステムを導入していなくても、システム上で発行したリンクを送るだけでクラウド上での契約締結が可能なものもあります。
どうしても取引先に理解を得られない場合は、紙の契約書と電子契約をうまく使い分けるなどフレキシブルな対応が求められます。

既存の業務フローの変更が発生する

新しい仕組みを導入する際には必然ですが、紙の契約から電子契約に切り替える場合には既存の業務フローへの影響を整理し、新しい業務フローに合わせて調整する必要があります。従来のやり方で慣れてきた社員にとっては、新しいシステムやフローに抵抗を感じる場合があります。社員の実務状況を理解したうえで、各自のメリットや利用イメージを丁寧に説明しながら導入に向けての社内調整を進める必要があります。また、役割に応じたマニュアルの作成や研修を開催することも確実に浸透させるために必要な手です。導入時には繁忙期を避け、プロジェクト専用のチームを発足させるなどの工夫も考えられます。
また紙の契約書では記名押印により原本とそれ以外を区別していますが、電子契約の場合は、電子署名を使うことでそれを区別することができます。スムーズに電子契約に切り替えるためにも、事前に明確なルールやゴールを設定しておきましょう。あわせて、運用開始後のフォロー体制についても考えておきましょう。

契約書の電子化のフロー

契約書の電子化を進めるには、自社にどのような契約書が存在するのか、それに伴い必要な機能はなにか、など考慮すべきポイントが多くあります。どのような準備が必要となるのか、以下で詳しく説明していきます。

契約書の内容と管理体制の把握

まずは現在の契約書の内容と、管理体制の把握からおこないましょう。ここでは、契約書の内容から導入するシステムに求める機能を洗い出すことが大切です。主なポイントは、「契約書の種類・内容」「発生する契約件数」「契約までの流れ」「契約書の管理部門」「契約書の保管期間」「契約書の閲覧頻度・人数」などです。
このようにして現在の状況が把握できたら、どの機能が必要か検討しましょう。必要な機能を洗い出すときには、実際に契約書を作成・管理している方から話を聞くことが大切です。現場の声を反映して導入を進めることで、業務効率化に役立つ機能をより具体的に検討することができます。

導入する電子契約システムの決定

現在の契約業務の状況やシステムに欲しい機能が確認できたら、それをもとに導入する電子契約システムを決定します。システムによっては、機能の実現にカスタマイズが必要で、追加費用が発生する場合もあります。標準で対応できる機能や追加開発も想定したコスト、利用状況などを考えて決定していきましょう。導入前は、複数の候補企業に資料請求し、比較検討をおこなうことで自社のニーズに合ったシステムを選びやすくなります。製品のなかには、一定期間無料で利用できるものもあるので、社内でトライアルしてもらい、社内アンケートをとるのもよいでしょう。

取引先企業と社員へ具体的に案内説明

社内外への周知を徹底することで、後のトラブルを防ぐことができます。なお、取引先への説明は、理解・納得してもらうまでに時間がかかる可能性があるためなるべく早い段階から説明をおこないましょう。
あわせて、従業員への説明も重要なポイントです。導入後のトラブルや不平不満を防ぐためにも、どのようなシステムを導入するのか、それに伴い業務フローがどう変更するのか、また、システムの使い方や移行時期などを詳しく伝えておきましょう。

まとめ

いかがでしたか?契約書の電子化は今や当たり前になりつつあります。多くのメリットがあり、一度使ったら紙の契約書に戻れなくなるかもしれません。まずは自社の契約書の状況の把握から始め、必要であれば電子化できるシステム導入を検討していきましょう!

SmartDB(スマートデービー)」は「電子印鑑GMOサイン」や「クラウドサイン」、「DocuSign」、「Adobe Sign」など各種電子契約システムと連携できます。電子契約と「SmartDB」をあわせて使用することで、契約業務において必要な社内の申請・承認から、電子署名・署名済み契約書の管理まで、すべてがシームレスにつながり、デジタル上での一元管理が可能となります。
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マーケティング本部 上野谷

この記事の執筆者:上野谷 (マーケティング本部)

金融機関に新卒入社し、3年間ほど個人営業、法人融資などの業務を経験。
2020年にドリーム・アーツに入社し、本部-店舗間コミュニケーションツール「Shopらん」のマーケティングを担当。2021年からInsuiteX、SmartDBも担当しています。