タレントマネジメントとは?目的・効果・導入方法・事例について紹介

タレントマネジメントという人事マネジメントを推進する企業が増えています。これまでも人事戦略は企業ごとに進められてきましたが、タレントマネジメントはなぜ注目されているのでしょうか。本記事では、タレントマネジメントの目的や効果・導入方法を事例と合わせて解説します。

タレントマネジメントとは

タレントマネジメントとは、従業員の持っているスキルや能力を重要な経営資源として捉え、それらを従業員および組織のパフォーマンスに最大限活かすために戦略的な人材配置や育成をおこなう人事マネジメントのことです。もともとは主に優秀人材を対象としていましたが、タレントマネジメントシステムの普及により、近年では全社員を対象にする企業が増えています。

“talent”という単語を直訳すると、才能・素質または才能がある人という意味になりますが、タレントマネジメントの概念をいち早く提唱したTHE WAR FOR TALENTでは、次のように定義しています。

『タレント』とはマネジメント人材を指し、あらゆるレベルで会社の目標達成と業績向上を推し進める、有能なリーダーとマネジャーを意味する
THE WAR FOR TALENT (Ed Michaeles, Helen Handfield-Jones, Beth Axelrod)

つまり、タレントマネジメントで育成すべき人材は、単純に才能のある人材ではなく、企業の掲げる経営目標に貢献できる人材ということです。
また、タレントマネジメントは、目指すべき目標や人事課題によって異なるため、企業ごとの特色がでます。したがって「どんな企業もこれさえやればいい」という定石はありません。
自らの会社が掲げる目標に適した方法で、リーダー候補となる人材を発掘・育成することがタレントマネジメントでは求められます。

タレントマネジメントの目的

経営目標を達成するための戦略を、人事面から支えて実現させることがタレントマネジメントの目的です。タレントマネジメントが特定の人材を対象とする場合と全社を対象とする場合があることは前述しましたが、目的はいずれの場合も変わりません。

タレントマネジメントの目的

また、タレントマネジメントの一番の目標は「リーダー候補の育成」です。リーダー候補となる人材を早期に育成することで、人事戦略や経営戦略をスムーズに進めることができます。
具体的には次の4つのポイントに取り組みます。

  1. 人材調達
    組織内で埋もれている人材の発掘や外部からの採用を通じて、経営目標を達成する上で必要になるであろう人材を揃える
  2. 人材育成
    経営目標を達成するために必要な人材と実情のギャップを確認し、ストレッチアサインメントやジョブローテーション、研修などの能力開発をおこなう
  3. 人材配置
    メンバーが能力を発揮できるよう、所属などの配置を見直し、適材適所によるパフォーマンスの最大化を図る
  4. 人材定着
    調達・育成した人材にできるだけ長く活躍し続けてもらうため、やりがいの創出、モチベーションの維持、キャリア開発などをおこなう

タレントマネジメントを推進するにあたって最も注意しなければならないのが「タレントマネジメントをするためにタレントマネジメントをする」というような手段の目的化です。手段の目的化を防ぐためにも本来の目的や目標を意識することが重要です。

タレントマネジメントが注目されている背景

ここではタレントマネジメントが注目されるようになった背景を紹介します。

◆ 少子高齢化に伴う労働市場の変化

2010年をピークに日本では急速に少子高齢化が進み、総務省の調査では、2065年には高齢化率が38.4%まで上昇すると予測しています。15~64歳の生産年齢人口も減少傾向にあり、人材確保が困難になるなか、限られたリソースでより多くの成果を出すことに意識が向いてきています。これには、人材それぞれの持つポテンシャルを最大限に活用することが必要です。
また、適切かつ効果的な教育と人材配置をすることで、タレント本人のモチベーションをも高め、定着率を高めるという効果も期待できるため、少子高齢化による人材不足への対策としてタレントマネジメントが注目されています。

◆ グローバル競争

現代社会では、グローバル化により世界中の企業が競合になり得ます。ほかの企業と差別化を図り、違う価値を提供するためには、経営戦略を考えるのと同時に実行のための人材確保が必要です。
また、グローバル化が進んだことで人材の流動化が進んでいることもタレントマネジメントがさらに関心を集めている要因といえます。新卒の一斉採用や年功序列の風習など日本古来の雇用慣行を切り捨て「タレント」に着目した人事戦略を考えていくことが、グローバル化のなかで生き抜くための企業価値の創造には必要です。

◆ 働き方改革の推進や価値観の多様化

働き方改革に取り組む企業が増えるなかで「長時間労働の是正」が特に注目されています。この実現には社員一人ひとりの生産性向上が鍵となります。
さらに近年では、仕事に対するやりがいや、仕事の社会的意義を大切にする人や「ワークライフバランス」を重視した時短勤務や在宅勤務などの働き方を希望する人など、仕事に対する価値観が多様化しています。各人材の能力や特性を見極め、最も能力を活かせる適所に配置して、経営戦略の推進と人材の定着をどちらも実現させる取り組みであるタレントマネジメントはこのような社会の変化に適した人事戦略といえるでしょう。

◆ 技術革新

タレントマネジメントが注目される背景には、技術革新もあります。人材に関わることは可視化や数値化がむずかしく、タレントマネジメント推進の阻害要因となっていました。人事分野での技術「HRテクノロジー」革新が進んだことでそれらも容易になり推進しやすくなったのです。

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◆ テレワーク導入企業の増加・経営戦略の変化

2020年以降、テレワークやそれに伴うパフォーマンス管理、エンゲージメント強化に対する日本企業の関心は引き続き高くなっています。
またテクノロジーの急速な進化によって、事業の変化もスピーディーかつ正確な予測が困難になりました。変化に合わせて人材を適材適所に配置するために、ヒトの能力を把握・管理する必要があります。

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タレントマネジメントの導入方法

タレントマネジメントには7つの導入ステップがあり、それぞれ「準備フェーズ」「実行フェーズ」「チェックフェーズ」の3つのフェーズに分けられます。
ステップのPDCAを回し続け、継続的にタレントマネジメントを実施することが重要です。

1.準備:目的を明確にする

人材を採用・育成する前に目標を立てます。企業の経営戦略に合わせ、人材を増やす目的や人数、必要な人材の能力や育成期間など、人事戦略を明確にします。

2.準備:タレントの把握・情報の可視化

経歴や顔写真、目標や自己評価、これまでの経験やその評価など、人材に関するあらゆる情報を可視化します。情報は常に最新の情報にアップデートできるように、関係部署間での情報共有を実施することも大切です。
ここで可視化した情報をもとに採用・育成の対象となるタレントを特定します。

3.準備:採用・育成計画の策定

既存人材の育成や新たな人材の採用のため計画を立てます。採用には有望な人材を中長期的に管理していくためのデータベース「タレントプール」を活用し、採用活動の質を向上しましょう。これにより、経営戦略に必要な人材に対して必要なタイミングでアプローチすることが可能になります。また育成する場合は、育成完了までの期間や育成目標などの計画を立てることで、実行中に必要な余剰人員や配置なども明確にしておきます。
この工程はタレントマネジメントの心臓部に当たりますので、綿密に実施します。

4.実行:タレントの採用・育成

ここまでのステップをもとに採用や育成を実施します。人材開発については、OJTやOFF-JTもストレッチアサインメントやジョブローテーションと合わせて活用するとよいでしょう。

5.実行:タレントの配置・活用

タレントを適材適所に配置します。配置した後は、人材が想定していた能力を発揮できているか、能力の向上ができているか、モチベーションはどうかなどを前提情報と比較して随時チェックし、収集した情報は蓄積させていきます。このステップでは現場管理者の役割と事前の情報連携が重要です。人材の配置までの前提情報を現場管理者がしっかり把握し、正しく現状との比較をする必要があります。

6.チェック:モニタリング

タレントマネジメントは「実行・評価・改善」をセットで行います。実行の際は必ずモニタリングを行いましょう。着実に人材を育成するため、必要に応じて計画や教育体制を見直し、ときとしてステップをさかのぼることも視野にいれます。

7.チェック:適切な人事評価

加えて重要なのが適切な人事評価体制の構築です。人材に対し適切な評価を行い、それを業績や人事に反映させることで、人材のモチベーションを高める効果が期待できます。この際、企業業績と個々の貢献度を照らし合わせるだけではなく、本人のキャリアプランや仕事にたいする考え方などもきめ細かに聞き取ることが重要です。

タレントマネジメントの活用事例

日産自動車

日産自動車はタレントマネジメントの先進企業として有名です。
2011年にタレントマネジメント部を立ち上げ、世界中にいる社員から優秀な人材を発掘・育成する取り組みがおこなわれています。
キャリアコーチと呼ばれる社内スカウトマンが、各部署と連携して優秀な人材を発掘、経営トップに推薦すると、そのなかで特に優秀な人材はリーダー育成専用プログラムにエントリーされるという仕組みです。また発掘する人材のポジションがあらかじめ明確になっており、本社の役員や各部門のトップなど、各ポジションにマッチングする人材候補を常に把握し育成しています。

参考:HITO vol.2 タレントマネジメントの未来(事例:日産自動車)|株式会社インテリジェンス

サイバーエージェント

サイバーエージェントは「キャリバー」という職場環境や人材ニーズを可視化したシステムを社内で公開。これにより社員がキャリアチェンジを具体的に検討することが可能になっており、あわせて社内異動公募制度「キャリチャレ」を活用した異動もおこなわれています。
また、経営トップが「人材覚醒会議」を実施し、タレントの育成について徹底的に話し合う会議がおこなわれています。社員の能力を高めるために、経営陣が本気になっているということが伝わることで社員のモチベーションの維持にも役立っています。

参考:HITO vol.2 タレントマネジメントの未来(事例:サイバーエージェント)|株式会社インテリジェンス

サントリーホールディングス

サントリーホールディングスは従業員の多様さを前提とした「ダイバーシティ経営」という経営方針に従って「全社員型タレントマネジメント」を人事の基本的な考え方としています。「全社員型タレントマネジメント」とは本人のキャリア志向や適性にもとづく人事異動を推進し、一人ひとりが活躍できる環境を用意することです。具体的には、社員が年に1回、職務状況や配置の希望を申告できる制度を導入し、社員の申告にもとづいて、長期的なキャリアプラン実現へのプロセスをマネージャーと話し合い、配置転換につなげるという取り組みです。
また、サントリーグループでは、従業員が日常業務のなかで「企業理念」をどのように認識、理解しているのか、会社や職場の組織風土、施策、コンプライアンスについてどのような意識をもっているのかを調査する組織風土調査を毎年実施。2020年の結果では、78.1%の従業員が自らの仕事にやりがいを感じており、66.9%が満足しているという結果が出ています。

参考:人材育成 サントリーグループのサステナビリティ

タレントマネジメント✕DX人材の確保

近年、企業がビジネスを展開する上でデジタルトランスフォーメーション(DX)は必要不可欠になっており、推進する企業も増えたことでDX人材の確保が課題に挙がっています。DX人材とは、単にデジタルに精通したIT人材ではなく、デジタルによってビジネスの変革を進められる人材を指します。
DX人材確保における人事部の役割は、求めるスキルや特性をもった人材の「採用」「社内での発掘・配置」「育成」の3点です。人事部はDX人材の確保にあたり、事業部門と人材に関する情報共有をおこなう必要があります。いつまでもアナログなやり方で情報展開をしていくのではなく、人事部に留まっている人材データを収集、有効に活用するため「タレントマネジメントシステム」の導入も検討の視野にいれる必要があります。
事業部門に人材データを展開したうえで、タレントマネジメント施策の全社的なモニタリングを人事部が担うことで、現場の意見を反映した最適なDX人材の確保を進めることにつながります。

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タレントマネジメントを実践する際の注意点

  • 手段の目的化を避ける

    運用が長期化するにつれ「タレントマネジメントをおこなう」ことが目的になってしまう場合があります。目的を見失ってしまうと、最悪の場合作業だけが引き継がれて、成果も出ずに挫折してしまうことになります。タレントマネジメントは手段であり目的ではありません。タレントマネジメントの導入ステップのはじめに目的やゴールを明確にしているのは、この手段の目的化をさけるためです。目的を明確にする際に、あわせてKPIや人事戦略におけるKGIを設定しておきます。このとき設定したKPIやKGIは定期的に振り返り、タレントマネジメント実践のなかで、今の経営計画と結びついるかを確認し、あらためて今必要となるKPIやKGIの姿を設定していきましょう。そうして常に目的を意識することで手段と差別化することが大切です。
  • 人材データ管理を怠らない・全社で活用する

    タレントマネジメントを推進するためには、常に最新の情報に人材データにアップデートする必要があります。必要なデータがあれば新たに収集しましょう。収集した人事情報は経営や人事だけではなく、現場の社員も活用できるようにして全社的に共有していくことで、社員の理解を深めることができます。
    自社に適したシステムを導入し、情報収集や活用しやすい環境を整えることで、人材データの管理に関して効率化を図ることが運用のコツです。
  • 継続する

    育成計画や企業価値の醸成は短期間では成し遂げられません。またときとして、抜本的な施策は社員から反発が起きることもあるでしょう。社員の理解を得ながらタレントマネジメントを成功させるには、 PDCAサイクルを回し続け、長期的な目線で試行錯誤しながら取り組む必要があります。

まとめ

いかがでしたか?
単純に人材を育成するだけでは、会社に人材を定着させることは難しく、また各人材が最高のパフォーマンスを発揮できないという可能性もあります。少子高齢化や近年急速に進む働き方の変容のなかで、会社の生産性や企業価値を維持するためにタレントマネジメントは有効な手段です。タレントマネジメントにおいて、目的や目標を明確にすることが重要ですが、実行のなかで人材データをいかに蓄積し、有効活用するかも意識する必要があります。このためにタレントマネジメントシステムを導入することも視野に入れると良いでしょう。

タレントマネジメントの実施時に重要な、目標管理・業績評価の方法に関する記事もあるので是非ご覧ください。
MBO(目標管理制度)とは?
OKRとは?MBOやKPIとの違い、目標管理・業績評価の方法を解説

prof_saitok

この記事の執筆者:斉藤(マーケティング本部)

通信サービス販売・コンタクトセンター運営などの経験を経て、2021年ドリーム・アーツに中途入社。マーケティング本部の一員として日々勉強中です。
たくさんの経験をしてきたことを活かし、誰が読んでも楽しめるコンテンツを目指して、今後もたくさんの情報をお届けします!