インクルージョンとは?ダイバーシティとの違いと導入事例

東京オリンピックのテーマである「多様性と調和」の中にも“多様性”が含まれるなど、日本でダイバーシティ(多様性)が注目されています。一方で、インクルージョンという言葉を聞いたことはないでしょうか。ダイバーシティと混同されがちなインクルージョンですが、2つの意味は異なります。インクルージョンとは何か、ダイバーシティと何が違うのか、最近の日本の動向や取り組みの事例などを解説していきます。

インクルージョンとは

インクルージョンとは

インクルージョン(inclusion)は、直訳すると「包括」「包含」などの意味を持つ英単語です。ビジネスにおいてインクルージョンが実現している状態とは、企業内すべての従業員が互いにそれぞれの経験や能力、考え方などの個性を認め合い、仕事に参画・貢献する機会が与えられ、一体感を持って働いている状態を指します。

そもそもインクルージョンという言葉は、ニートや若年層の失業者、障害者など何らかの要因で社会から排除されている状態を指す「社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)」の対義語として、1980年代に「社会的包摂:ソーシャル・インクルージョン」が生まれたことがきっかけで広がり始めます。「社会的包摂:ソーシャル・インクルージョン」は、1980年代のアメリカで障害者福祉や教育界に影響を与え、「インクルーシブ教育」といった言葉が使われるようになっていきました。「インクルーシブ教育」とは、障害の有無や家庭の貧富格差などにとらわれず、生徒一人ひとりに合った教育をおこなうことを指します。

このような考え方が、2000年頃からビジネスにも転用され、今では「企業内すべての従業員が互いにそれぞれの経験や能力、考え方などの個性を認め合い、仕事に参画・貢献する機会が与えられ、一体感を持って働いている状態」という概念で浸透しているという歴史があります。

インクルージョンはなぜ重要なのか

企業における人的資源の確保、優秀な人材の確保は会社の未来のためにとても重要なことです。少子高齢化が進む日本では、人材獲得競争が今後更に激化します。数ある企業の中で、インクルージョンが実現できている企業とそうでない企業があれば、インクルージョンが実現できている企業のほうが魅力的ですよね。インクルージョンの実現には、採用活動におけるブランディングにとても効果があると言えます。

また、第三次産業(サービス業)の比率が高い日本では、無形サービスが増加し、流行の変化が激しく不安定です。そのため、サービスを選んでもらうことが困難となっています。このような中でも、インクルージョンの実現によって多様な人材を受け入れ、さまざまな視点の意見が積極的に取り入れられる環境であれば、事業におけるターゲットの幅も広がります。

さらに、一人ひとりが活躍できる環境であれば、従業員のモチベーションアップから生産性の向上が見込まれ、事業の発展そして会社自体の発展においてもインクルージョンは効果を発揮します。

インクルージョンとダイバーシティの違い

日本で注目されているダイバーシティ(多様性)は、インクルージョンと似ていますが、実は全く違います。
ダイバーシティは、日本語で「多様性の包含・受容」などと訳されます。ビジネスにおいては、人種・国籍・性別・性格・学歴などを超え、多様な人材を企業に迎え入れるという考え方で使われます。ダイバーシティは、実はインクルージョンよりも前に生まれた言葉です。移民国家であるアメリカで1960年代に公民権運動が起こり、マイノリティの権利が認められるようになったのが発端となり、広がっていきました。

「ダイバーシティ」は、人材の多様性を認め互いに受け入れ合うこと。
「インクルージョン」は、人材の属性に捉われることなく平等に機会が与えられ、一体感を持って働く環境があること。

この2つには、多様性を認めることと、その多様性を活かすことに違いがあります。

ダイバーシティ&インクルージョンとは?

アメリカでは、1960年代に起こった公民権運動から、企業に「ダイバーシティ」を推進する動きが広まりました。歴史的背景により人種のるつぼとなっていたアメリカでは、多様性を容認した企業経営が不可欠となり、企業は多様な人材を受け入れ始めます。しかし、この取り組みは表面的にしかおこなわれていませんでした。

ただ単に人種や文化、宗教が違う人たちを受け入れただけでは、差別があったり理解されてもらえなかったりします。そうすると、従業員の生産性やモチベーションは上がりません。受け入れた人材が働きやすく、活躍できる環境がなければ意味がないという考え方からダイバーシティに加えインクルージョンの考え方をプラスするようになっていきました。このダイバーシティに加えインクルージョンの考え方をプラスした考え方を「ダイバーシティ&インクルージョン」といいます。

日本においては、経済産業省が「ダイバーシティ経営」を推進していますが、「ダイバーシティ経営」とは、「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義されており、「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方がもとになっています。日本における「ダイバーシティ」は、実質的には「ダイバーシティ&インクルージョン」を指していることがほとんどです。この「ダイバーシティ経営」を取り入れる企業が日本では増えています。
ダイバーシティ経営の推進(経済産業省ホームページより)

インクルージョン導入のメリット・デメリット

インクルージョンの導入・実現にはメリットがある一方で、デメリットも存在します。メリットもデメリットも理解したうえで実現に向け進めていきましょう。

インクルージョン導入のメリット

優秀な人材の獲得
少子高齢化により優秀な人材の獲得競争が激化していく中で、多様性が認められ活かせる環境がある企業には関心が集まりやすくなります。

エンゲージメントの向上
企業と従業員、企業と顧客をつなぐ絆であるエンゲージメントは、互いへの信頼関係によって成り立ちます。多様性が認められ活かせる環境が企業から提供されれば、職場の魅力は増し、従業員との信頼も厚くなります。

モチベーションアップ
自分の個性や発言が認められ、能力が発揮できる環境であれば従業員のモチベーションはアップします。

離職率の低下、定着率の向上
魅力的な職場であれば、離職する従業員が減り、定着率も比例して向上していきます。

インクルージョン導入のデメリット

従業員の抵抗
歴史ある大企業など、慣性力の強い企業では、新しい属性などを入れることに対して抵抗が生まれることが多いです。多様性を認め合うことだけでなく活かすことの重要性を訴え続けることが必要です。

制度やルールの整備
インクルージョンを実現するにあたって制度やルールを新たに制定したり、見直したりする必要が発生します。制定するまでの段取りや、制定してから浸透するまでの期間も見込んでおくことが大切です。

数値化しにくく進捗が分かりづらい
ダイバーシティは「全社員の〇%が外国人」など数値化しやすいですが、多様性を活かすインクルージョンは数値化しにくく進捗度がわかりにくいです。こまめに従業員満足度を調査したり、個別面談やアンケートをとったりするなど、工夫が必要です。

インクルージョンの企業導入事例

インクルージョンを導入する企業の事例を実際にご紹介します。

リクルートホールディングス

リクルートグループでは創業以来、階級、人種、肌の色、性別、言語、宗教、ジェンダー、年齢、政治的・その他の意見、国民的もしくは社会的出身、国籍、財産、性的指向、性自認、障がい、出生などを問わず、その違いを認め合いながら異なる意見を尊重することが新しい価値を生むということを揺るぎない信念としています。

各社でジェンダー平等の実現に向け取り組まれている「リクルートグループ国際女性の日」の設定や、誰もが自分に合った仕事を見つけられるようにすることや多様性の担保などに取り組む「HRテクノロジーSBU」などさまざまな取り組みをおこなっています。

日立製作所

日立製作所では、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を経営戦略の一環として位置付けており、性別・国籍・人種・宗教・バックグラウンド・年齢・障がいの有無・性的指向といった違いを「その人がもつ個性」と捉え、それぞれの個性を尊重し、組織の強みとなるよう生かすことで、個人と組織の持続的成長につなげることを目指しています。

グループ・グローバルと各地域でのダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを推進する体制を構築し、経営陣が指針の策定や、施策および投資に関する優先順位の決定をおこなうとともに、取り組みから得た学びを通して日立グループの人財担当者と議論を進めたりしています。
また、社内外のコミュニケーションをグローバルに見直し、全社的な研修やイベント、地域や事業に合わせたダイバーシティ&インクルージョンの要素を考慮した採用活動の検討などもおこなっています。

P&G

P&Gでは、「文化」「制度」「スキル」を3本柱に、25年以上にわたって、女性活躍推進、ダイバーシティ&インクルージョンの推進、多様な社員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる組織づくりに取り組んでおり、より多様な社員が自分らしさを大切にしながら活躍できる組織作りを目指し、LGTBQ+の社員、障がいのある社員に向けての取り組みも強化しています。

また、一人ひとりにあった働き方が選べる柔軟な社内制度を導入しており、これらの制度は、社会情勢や社員のニーズにあわせて常に進化・拡充させています。
その他にも、外部講演やシンポジウムへの登壇などを通じて、「ダイバーシティ&インクルージョン」の意義を啓発する活動や、P&Gが開発したダイバーシティ&インクルージョンの研修プログラムを他の企業や団体に無償で提供するなどの活動をおこなっています。

 

インクルージョンの企業導入のポイントと注意点

インクルージョン導入に向けたポイント

自社のインクルージョン推進状況を把握する

まずは、自社で既におこなっている施策や制度の中で当てはまるものはあるのか、もしくはインクルージョンを推進するにあたって改善すべき課題は何か明確化することが大切です。面談やアンケートを事前に実施し、担当部署がまだ把握していないような問題を顕在化させておくことで効果的な施策をおこなえるようにしましょう。

制度・体制の整備

問題に対してどのような制度を改定する必要があるのか、さまざまな人材を受け入れるための体制はどうするのか、など明確化し整えましょう。例えば、病気や長時間の勤務が難しい人のために休暇や勤務形態を見直すことや、評価手法の見直しなどがあげられます。制度を整えるだけでなく、その後の効果もあわせてアンケートなどで見ていくことが重要です。

誰もが発言しやすい環境づくり

多様性を活かすためには、一人ひとりが発言しやすい環境にしていくことが重要です。個性あふれる一人ひとりのさまざまな視点での意見が、会社をさらに成長させていくという意識を社内に浸透させるため、説明会などをおこないましょう。

社内の意識改革

社内改革をおこなうためには、根本的に社内の意識改革が必要です。関心や協力を得るためには、インクルージョンに関する概要に合わせて経営陣や従業員にとってどんなメリットがあるのかをきちんと理解してもらう必要があります。また、状態ゴールやそれをいつまでに達成するのかの目標を定め、社内にあわせて共有しましょう。

進捗共有

導入後の活動内容や実際の効果、予定されている施策などの共有は、責任者から定期的におこないましょう。インクルージョン導入の効果は数値化しにくいですが、従業員の実際の声や、従業員満足度アンケートなども活用する方法があります。
そのほか、離職率や、採用の成果など業績における変化など数値化できるものも共有し、従業員の関心を集めることが大切です。

インクルージョン導入で注意すべきこと

数値に固執しない

女性の役員比率や従業員の外国人率などの数値的目標を達成すべく、むやみやたらに基準に満たない人材を登用、採用することはインクルージョンが実現できた状態とはいえません。社内の登用や採用の基準を守り、その会社にあった従業員一人ひとりがお互いの個性を認め合い活躍できる姿を目的としましょう。

経営陣を巻き込む

インクルージョン導入をおこなう背景や理由、推進イメージの全従業員への浸透などは、経営陣の協力なしではなかなかスムーズに進みません。人的資源を最大に活用することは経営において重要であり、インクルージョンはそのための最善の手段として経営陣に関与してもらうことで、進みやすくなります。

インクルージョンの定義を見失わない

日本の企業では、女性の活躍や女性のための制度改革など女性に焦点が当たっていることが多く見受けられます。ダイバーシティ、インクルージョンにおける多様性は女性に限らず、人種・国籍・性別・性格・学歴・宗教などを指しています。何かに偏ることがないよう進めていきましょう。

まとめ

障がいの有無や、男性、女性という分け方ではなく、最近はLGBTQなど今までの分け方とは違う、さまざまな個性を持った人たちがいます。世界、そして日本社会が多様性を認め始めている中、企業もそれに対応していかなければなりません。インクルージョンの導入にはなかなか理解を得られなかったり、成果がすぐには表れにくかったりしますが、屈することなく長期的に取り組み、あらゆる個性の人が生き生きと働ける社会を作っていきましょう。

インクルージョンは、社員が働きやすい環境をつくる、働き方改革として重要な考え方です。
働き方改革の施策について検討の際には意識してみてください。

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マーケティンググループ 橋本

この記事の執筆者:橋本 (プロモーショングループ)

2020年に広島の大学を卒業し、ドリーム・アーツに入社
日々学び、身に付けた知識を少しでも多く皆さんにお伝えし、お役立ちできることを目指して活動中。