業務引継ぎ資料とは?作成方法とわかりやすく伝えるコツをご紹介

ビジネスにおいては異動や転勤、出向などのシチュエーションで引継ぎ業務が発生します。
引継ぎ時に作成すると良いのが「引継ぎ資料」です。引継ぎ資料がない、引継ぎ資料の内容が不十分であれば、前任者に頻繁に問い合わせが来る・退職済で問い合わせ出来ない場合は案件を失注する・トラブルに迅速に対応できず被害が拡大するといった問題が生じる場合があります。このように、引継ぎ資料は、業務を円滑に進めるうえで欠かせないものです。
本記事では業務引継ぎ資料の作成方法やポイントについてご紹介します。

業務引継ぎ資料とは

業務引継ぎ資料とは、これまで自分がおこなっていた業務内容をまとめ、後任へ引継ぐ際に利用する書式全般を指します。そして、引継ぎ資料と混同されやすいものに「マニュアル」があります。どちらも業務内容を記載していますが、より具体的で個人的なものを指すのが引継ぎ資料です。引継ぎ資料は、マニュアルのような標準的な内容でなく、案件特有の情報を詳細に記載する必要があり、属人的な情報をなくし後任が困らないようにする効果があります。
引継ぎが発生するシチュエーションとしては下記が想定されます。

  1. 部署異動などの配置転換
  2. 出向や転勤など勤務地の変更
  3. 退職時
これ以外にも異動を伴わなくとも、部下や後輩へ業務を引継ぐ場合もあるでしょう。このような際、口頭で伝えるだけでは伝え漏れが発生する可能性があります。そこで、引継ぎ資料があれば、円滑に引継ぎ業務を完了させることができます。

引継ぎ資料を作成するメリット

引継ぎがスムーズにおこなえる

引継ぎ業務が発生するほとんどの場合で、時間があまり確保できません。限られた時間で後任に正確な情報を伝えていく必要があります。その際、口頭のみの引継ぎだと、理解が難しく、誤った解釈で伝わる恐れがあります。また、時間が経って引継ぎ内容を忘れてしまうことも考えられます。後任の担当者が早く業務に慣れて早期に戦力化するためにも業務引継ぎ資料は役立ちます。
たとえば、対応が必要な事項や発生しやすいトラブルなどをリストアップしておくことで、ミスを減らせるうえ、もしトラブルが起こっても迅速に対策をおこなえます。もしトラブルの影響が大きく、自分で判断できない問題があったとしても、周囲に相談すべきと引継ぎ資料に記載することで、責任の範囲が明らかになり、後任は判断しやすくなります。

顧客との信頼維持・生産性向上

顧客が前任に伝えた情報が後任に正確に伝わっていないなどの問題が発覚した場合、顧客の信頼を損なう可能性があります。また前任に都度確認が必要な状態では、両者の生産性はあがりません。そのような事態を避けためにも丁寧に業務引継ぎ資料を作成し、顧客とのやり取りや業務の流れを後任に伝えておく必要があります。結果、これまで築いてきた顧客との信頼維持、引継ぎ後の両者の生産性向上(※)に繋がります。「あの人にしかできない」「あの人しかわからない」という業務がないようにしましょう。
後任が関係者とスムーズに業務を進めるためにも引継ぎ業務は重要で、それをスムーズかつ確実におこなうためにも引継ぎ資料は大切です。

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カイゼンに繋がる

引継ぎ資料を作成する際、自分の業務1つ1つを振り返ることができます。これまで気づいていなかったムダな部分や課題を発見し、カイゼンできる場合もあります。業務プロセスを最適化し、効率をあげることは企業活動において欠かせない取り組みです。引継ぎをきっかけにカイゼンできる部分はカイゼンすることで、業務自体の生産性向上や取引先とのスムーズなやりとりに繋がります。
カイゼンを進める際は下記の要素を軸にしましょう。

3Mの削減
3Mとはムリ・ムダ・ムラを指します。
この3つは作業効率低下の原因になるので、削減していきましょう。
5S活動の促進
5Sとは「整理・整頓・清掃・清潔・躾」を指します。
全社で5Sに取り組むことで「安全」「効率的」「快適」な職場づくりの実現に繋がります。

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引継ぎ資料に求められる重要ポイント

ここでは、引継ぎ資料作成時の重要なポイントをご紹介します。

業務の目的や関係者を明確に記載する

引継ぎする業務をどのように伝えれば業務内容の理解がしやすくなるかをまずは考えましょう。業務の目的を具体的に説明し、業務全体の流れを図やイラストで表現することも効果的です。ビジネスにおける業務は単体で完結するものではなく、複雑にほかの業務と絡み合っています。そのため、その業務が会社内でどのような役割を担っているのか、業務同士どのように関連があるのか、など、丁寧に記載するようにしましょう。業務同士の関わりや繋がりを引継ぎ資料に落とし込むことで、その業務の目的が明確に伝わり、後任が正しい判断をできるようになります。
また、引継ぎ資料には社内外の関係者の名前や連絡先を記載しましょう。似た業務をおこなっている人も記載しておけば、後任が困った際に相談すべき相手がわかります。

必要なことがすべて記載されている

引継ぎ資料は「だれが見てもわかりやすく、必要な情報がすべてまとまっている」ことが重要なポイントです。前任者が不在の状況でも組織がスムーズに運営されるために、必要な情報を漏れなく伝える必要があります。そして、業務の手順は細かく丁寧に記載しましょう。自分がおこなっている業務は無意識におこなっているものがあるので注意が必要です。慣れている業務に関しては初心に戻って丁寧な引継ぎをおこなうことを心掛けましょう。
引継ぎ資料に記載した手順に漏れがないかどうかは、MECE(ミーシー)を活用してチェックすることが有効です。MECEとは、ロジカルシンキング(論理的思考)の基本概念です。お互いに重複せず、全体に漏れがないことを指すフレームワークのことで、ヌケモレがないように物事を整理する際に用いられる手法です。

業務種類によってまとめ方を工夫する

業務には、大きく下記の2種類の型が存在します。

  • ルーチン型:一定期間で決まった作業を繰り返す。作業が手順化されている。
  • イベント型:都度対応が必要なイベントを起点に作業をおこなう。状況により作業内容が変化する
ルーチン型は、一定期間のスケジュールで作業を洗い出し、時系列やカテゴリ別にまとめましょう。スケジュール表形式でまとめるとさらにわかりやすい資料が作成できます。
イベント型では、想定される状況や関係先、作業規模ごとにまとめ、時間が経過することにより状況変化する場合は、業務フロー図を活用しましょう。業務フロー図とは、業務についての一連のやりとりの流れを示し、具体的には社内で運用されるデータや書類、それに関わる人・モノ・時間・場所などの流れを図式化したものを指します。だれでも理解できる資料にするために、イメージしやすいよう文章だけでなく図や写真などの要素を資料に入れる工夫もしましょう。

【関連記事】業務フロー図で仕事を可視化!わかりやすく書くコツと具体例

 

マニュアルでカバーされない内容を記載する

マニュアルとは手順や手引きのことで、一般的な業務の作業手順が羅列されています。引継ぎ資料には、このマニュアルでカバーできない事項を記載しましょう。引継ぎで特に重要な、「現時点での未処理事項・懸念事項」についてはマニュアルには記載されていないため、引継ぎ資料に記載するようにしましょう。 また、前任不在時に起こり得るトラブルなどイレギュラーな内容を伝えるようにします。自分なりの効率的な業務の進め方やテクニックなども記載すると後任が業務をしやすくなります。
マニュアルは関連資料としてリンクを紐づけることで、電子引継ぎ資料として有効となります。わかりにくくなるため、業務マニュアルと引継ぎ資料で記載されている内容ができるだけ重複しないように注意しましょう。

引継ぎ資料に必ず記載すべき重要事項

引継ぎ資料には次のような項目は必ず記載するようにしましょう。

引継ぎ者と後任の名前

作成日とともに、業務を引継ぐ人の名前は記載してください。

担当業務の目的・概要

業務の目的や意図、ゴールを記載します。前後の業務の理解にも役立つので、丁寧に記載するようにしましょう。

業務全体の流れ・関係者と関係性

業務全体の流れを記載する際は業務フロー図を活用してわかりやすい表現を心掛けましょう。あわせて、社内外の関係者の氏名・連絡先を記載しておくようにしましょう。

作業手順

作業手順は箇条書きでも良いので明確に記載しましょう。この際、専門用語や社内用語など限られた人にしかわからないワードは使用しないようにしてください。

作業期間と期限

いつまでに完了すべきなのか、期限は明記しましょう。必要な作業時間の目安もあわせて記載しておくと親切でしょう。

過去のトラブル・対処法、そこから得たノウハウなど

引継ぐ業務について、過去トラブルがあった場合は当時の対処法や関係者を記載しましょう。そこで得たノウハウがあればあわせて伝え、後任の方が困らないようにしましょう。

取引先の連絡先

業務完了時に連絡する先はもちろん、取引先の情報も必須です。担当者レベルで記載し、後任が直接連絡をとれる状態にしておきましょう。

ほかにも、「業務で発生しやすいトラブルと対処法」「社内資料や必要書類の保管先」「未処理事項や懸念事項」を記載すると内容の充実した引継ぎ資料を作成することができます。

引継ぎ資料作成の流れ

 

引継ぎのスケジュールを作成

まずは自分がおこなっている業務のなかで、引継ぎする業務を洗い出しスケジュールを立てましょう。出向や転勤などで職場を離れる際は、最終出社日の1週間前、最低でも3日前には引継ぎ完了できるようにスケジュールを組むと良いでしょう。いつを引継ぎ日とするか、まずは後任が所属する部署とすりあわせをし、確認しておきましょう。取引先に関わるような重要な業務については、特にしっかりとした準備が必要です。引継ぎのスケジュールを立てる際は、タスクごとにスケジュールを立てられるガントチャート機能があるツールを活用すると良いでしょう。
引継ぎにかかわらず、業務自体のスケジュールも確認しましょう。引継ぎ時はどのようなタイミングなのか、今後その業務に関して予定されていることを後任に伝えることで、周囲の状況を早く掴めるようになります。

 

引継ぎ資料に記載する項目を決める

引継ぎのスケジュールを立てたら、実際に引継ぎ資料に記載する内容を決めていきましょう。業務の流れや手順に沿って、業務の具体的な内容を記載できるように構成についてもあわせて考えましょう。流れに沿わずに書いてしまうと最後まで読まないと業務を理解できない、後任があらためて業務内容を整理しなおす必要が出てくるなど、効率的とはいえません。だれが見てもわかりやすい資料を目指して、必要な項目を洗い出していきます。それぞれの業務の重要度や優先度なども記載することでよりスムーズに引継ぎがおこなえます。
また、その業務に必要な情報については漏れなく記載するように心掛けましょう。この段階で後任となる担当者とすりあわせをおこなうのも良いかもしれません。

 

引継ぎ資料を作成する

引継ぎ資料に記載する項目が決まったら、実際に引継ぎ資料を作成していきます。この際、その業務に関係のない部署の人でも理解できるよう、わかりやすくまとめられているかを基準に作成すると、だれでもわかりやすい引継ぎ資料を作成することができます。業務スケジュールがある場合は、「年間スケジュール」「月間スケジュール」に分けて作成しましょう。

年間スケジュール

年間スケジュールでは概要が伝われば良いので、細かい業務内容は記載不要です。

    【作成方法】
  1. 担当業務をすべて記載する
  2. 月別で分けて、対象期間が明確にわかるように線や矢印で表現する
  3. 業務内容に作業概要を記載し補足する

月間スケジュール

月間スケジュールは、業務スケジュール整理のほかに、後任のための備忘録の役割を果たします。 引継ぎをおこなう時期以外の業務については特に詳しく記載するようにしましょう。

    【作成方法】
  1. 作業項目ごとに作業納期を時系列順に並べる
  2. 納期は第〇営業日/第〇週/月末というように記載する
  3. 報告先は自部門・他部門・取引先ごとに記載する
  4. 注意すべきポイントや補足があれば記載する

 

後任への引継ぎ

完成した引継ぎ資料を、業務を引継ぐ後任へ渡しましょう。データで渡す場合は引継ぎ後も後任が閲覧できるように、データの保存場所を伝えてください。この際、引継ぎ資料をただ渡すだけでなく、必要に応じて引継ぎ資料について説明をしましょう。余裕があれば、実際に後任にあたる方に業務をおこなってもらい、疑問点や不安な点がないか、うまく活用できそうかをチェックしてもらうと良いでしょう。そこで出てきた疑問的についてはフォローしたうえで、引継ぎ資料に追記し、よりわかりやすい資料へアップデートしていきましょう。このとき、取引先の連絡先(名刺など)も同時に渡せるように準備しておきましょう。 引継ぎ期間は後任の方とスケジュールを共有し、時間があれば一緒に業務を進めていくようにすると良いでしょう。

まとめ

いかがでしたか?業務引継ぎ資料は、ただ業務を伝えるためだけでなく、業務自体の見直しや、生産性向上にも繋がります。今回紹介したポイントをよく理解して、短い引継ぎ期間であってもスムーズに、どの立場の人が見てもわかりやすい資料作成、そして円滑な引継ぎをしていきましょう。
業務マニュアルが整備されている企業はそれとうまく使い分けて、効率的な引継ぎをおこなってください。

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マーケティング本部 上野谷

この記事の執筆者:上野谷 (マーケティング本部)

金融機関に新卒入社し、3年間ほど個人営業、法人融資などの業務を経験。
2020年にドリーム・アーツに入社し、本部-店舗間コミュニケーションツール「Shopらん」のマーケティングを担当。2021年からInsuiteX、SmartDBも担当しています。